住民が育てる1kmの緑道「四季の径」 緑でつながる緑園都市のまちづくり
相鉄いずみ野線・緑園都市駅から線路沿いに約1キロ続く歩行者専用道路「四季の径(みち)」。筆者が初めてこの地を訪れた際、緑園都市の名の通り、街に溶け込むように連なる並木道の風景に強く惹きつけられました。日常の中に自然が組み込まれた環境について深く知りたいと思い、今回その管理団体を取材しました。この道を何十年も守り、育ててきた住民たちは、四季の径にどのような思いを託してきたのか。緑園都市のまちづくりの姿を紐解きます。
四季の径をもう一度美しく──住民の想いが生んだ緑化活動のはじまり
1989(平成元)年に「横浜市まちなみ景観賞」を受賞したこの遊歩道は、春は桜、夏はサルスベリ、秋はイチョウ、冬はツバキ、そして常緑の並木など、緑にあふれ、緑園都市の穏やかな時間を象徴する存在です。朝の通勤・通学や放課後の帰り道、週末の散歩など、人々の暮らしの風景が流れる場所として、地域に親しまれてきました。
半世紀前はこの場所はまだ山であり、1967(昭和42)年頃から大規模な開発が進み、鉄道の敷設や区画整理を経て、緑園都市は“まちをゼロからつくる”規模で整備されました。街路設計にはアメリカ・ラドバーンの都市計画をモデルに歩車分離の理念が取り入れられ、それを象徴するように「四季の径」も建設されました。
そして地域の発展とともに1987(昭和62)年4月に「緑園都市コミュニティ協会(RCA)」が設立されました。現在はNPO法人として、幅広く会員を募集し緑園都市のまちづくりを続けています。四季の径の緑化においても、RCAが地域の主体となって先駆的に取り組んできました。
「RCAが緑の活動を始めたのは、緑園のシンボルである四季の径を綺麗にしたいという思いからです」と田口さんは話します。
建設当初は美しい景観が広がっていた四季の径ですが、年月を重ねるに連れ、木々は大きく成長し、朽ちるものや枯れるものも出てきました。雑草も増え、かつての整然とした姿とは違う表情を見せるようになったといいます。
こうした光景を目の前にして、住民の間にある意識が生まれました。 田口さんは当時の気づきを次のように振り返ります。
「マンションに住んでいるとね、なぜ四季の径を誰も掃除しないのだろうと思うんです。僕も最初そう思いました。でも違うんです。戸建てエリアの道路は戸建ての住民が掃除するように、四季の径は自分たちで綺麗にする場所なんです」
誰かが整えてくれる場所ではなく、自分たちの地域は自分たちで整えていく。この住民の想いが、RCAによる緑化活動のスタートラインでした。
※「緑園都市緑化推進クラブ」【RCA傘下の組織】
次章の「地域緑のまちづくり事業」への応募にて、新たに立ち上げた組織です。緑園3丁目〜6丁目の住民、そしてRCAや自治会・管理組合の役員が所属しており、四季の径周辺の緑化・美化を推進しています。地域の各団体が連携することで、継続した活動ができる体制が整えられています。
挑戦を重ねた先に見えた道──「地域緑のまちづくり事業」採択までの物語
四季の径の緑化活動を本格的に進めるため、下部組織「緑園都市緑化推進クラブ」を創設し、横浜市が推進する「地域緑のまちづくり事業」への応募を決めました。この事業は、都市化で減少した緑を守り、次世代へ継いでいく「横浜みどりアップ計画」を背景に、市民主体の緑化を支援する制度です。計画の財源には、市独自の「横浜みどり税」が活用され、住民が望む“花と緑のある街”を、計画づくりから植栽、維持管理まで市民が行い、市が一貫して市民活動をサポートします。
緑園都市緑化推進クラブは2019年から約半年をかけて提案書を作成し、初めて応募しましたが、結果は不採択でした。当時の審査員からは「すでに緑が多い地域で、なぜ追加の緑化が必要なのか」「活動範囲が狭いのではないか」といった指摘が寄せられたそうです。
約1キロにわたって続く遊歩道「四季の径」は、駅に近いマンション群から始まり、周辺には戸建住宅が並びます。最初に計画した活動範囲は、遊歩道の一部、RCA団体の活動中心である駅周辺のマンションに隣接したエリアが対象でした。その現状と初期計画が「地域全体への波及」に欠けると見られたことが一つの要因のようでした。
落選の結果を受けて、一時は挑戦することを諦めかけたといいます。しかし横浜市担当者から再応募を勧められ、翌年にもう一度チャレンジすることを決意します。ちょうど世の中はコロナ禍に入り、活動が制限される時期でもありました。その中で、緑園都市緑化推進クラブは感染対策を徹底しながら会合を重ね、地域住民への説明、泉土木事務所への協力依頼、そして樹木の種類調査や遊歩道全体を含めた計画の再構築に取り組みました。
地道な努力を続けた結果、2020年に審査に合格し、2021年から最大3年間の事業採択が決まりました。これは当初の計画から磨き上げた内容が評価された瞬間であり、同時に「地域の緑を自分たちの手で守り育てる」という住民の強い意志が形になった結果でもありました。
暮らしの中に緑を根づかせるために──住民が積み上げた工夫の数々
「地域緑のまちづくり事業」の採択後も、住民たちの試行錯誤は続きます。
四季の径のそばに暮らす人々にとって、この遊歩道は生活の延長にある身近な場所です。しかし、公共の道路である以上、自由に植栽したり整備したりすることはできません。何か手を加えるには、行政の許可が必要です。
「樹木を植えたかったのですが、認められなくて。まずはプランターから始めることになりました」と加藤さんは振り返ります。
プランター設置にあたっては、マンション住民だけでなく、周辺の戸建て住民にも広く声をかけました。横浜市の助成制度について緑園都市緑化推進クラブから丁寧に説明し、設置条件について住民と認識を合わせながら、一歩ずつ前へと進めていきました。
緑を増やすだけでなく、その維持管理に必要な環境整備も進めました。例えば、植栽帯の小道です。当初、この植栽帯には通り抜けできる道はなかったのですが、近道として横切る人が多く、草花が踏まれてしまうことが課題でした。そこで、あえて植栽帯の中に「通ってよい道」を整備し、植物を守りつつ歩行者の動線を確保しました。
落ち葉掃除などの遊歩道の手入れは、「気付いた人が、気付いた時に手を動かす」スタイルで皆が少しずつ手を動かしています。また、横浜市の制度「ハマロード・サポーター(以下ハマサポ)」も活用。ハマロード・サポーターは、地域住民が“身近な道路の里親”として手を挙げ、行政と協力しながら継続的に道路の清掃や美化に取り組む制度です。ボランティア団体として登録すると、活動に必要なほうきや剪定ばさみなどの道具を区の土木事務所から貸与してもらえるほか、ごみの回収といった支援が受けられます。
数々の取り組みの原動力になっているのは、緑と向き合う中で感じる“植物の力”です。
「植物の生命力には驚かされることも多く、元気をもらえることが緑化活動を続ける原動力になっています。また、地球温暖化により植物の育つ環境も変化しており、美しい日本の環境を守ることがいかに大切かと考えさせられます」と山中さんは語ります。
日々の活動は、小さな工夫の積み重ねです。一歩ずつ街の緑が豊かになっていく様子は、住民にとって大きな励みになっています。
子どもたちとつくる四季の径、140枚を超える二次元コード付き樹名板と40枚の手作り樹名板
「地域緑のまちづくり事業」は2023年に3年間の支援金による活動を終え、現在は5年間の維持活動をRCAと「ハマサポ」との共同で活動を続けながら、新たな取り組みにも力を入れています。
その一つが、樹名板です。遊歩道を歩くと、緑の合間に2種類の樹名板が目に止まります。一つはRCAが手がけたもので、深緑色のプレートに白文字で説明文があり、二次元コードから詳細情報も確認できる優れものです。もう一つは小学生の手作りで、手書きのイラストや感性豊かなコメントが添えられ、訪れる人の心を和ませてくれます。
この手書き樹名板は、地域学習の授業がきっかけでした。RCAの活動紹介を知った子どもたちから「自分たちもやってみたい」という声が上がり、当時の小学3年生が制作に挑戦しました。木の名前を調べ、絵を描き、その特徴を自分の言葉で書き添える。取り付け作業はRCAのメンバーと一緒に行いました。
「みんな楽しそうでしたよ。はしゃいで」と山中さんは微笑みます。
この活動は継続的に行われていて、現在は40枚の手作り樹名板が毎年更新され、四季の径を彩っています。また「お姉ちゃんがやったから僕もやりたい」と家族で取り組みを楽しみにしている話も聞くそうです。
「今度、お仕事体験させてほしいということで、中学生向けにRCAの活動を紹介するんです」と話す木村さん。
子どもたちにとっては“自分の地域を自分で作る経験”であり、地域とのつながりを深める大切な学びの機会となっています。
“緑を育てる”から“つながりを育てる”──四季の径が目指す未来
「四季の径は庭のようなもの」と話すRCAのみなさんが口をそろえるのは、「緑を増やすこと自体が活動の目的ではない」ことです。
四季の径の緑化活動を通して見えたのは、植栽や手入れといった活動の先に、住民同士や行政とのつながりが自然と育まれる姿でした。それは、植物を育てると同時に、コミュニティを育てる営みでもあります。緑をきっかけに人と人がつながり、その関係性がまた次の活動を支えていく。こうした循環こそが、RCAの皆さんが大切にしている本当の“実り”なのかもしれません。
一方で、RCAの会員数は年々減少傾向にあります。今後も地域を主体とした緑化活動を続けていくためには、活動の認知度の向上を行い、四季の径や緑化に関心を持つ世代に働きかけることが大切とメンバーは考えています。SNSやWEBを使った活動の発信、地域イベントへの参加など、未来に向けた取り組みも始まっています。
四季の径は、単なる遊歩道ではありません。季節とともに姿を変え、住民が手をかけ、子どもたちが学び、まちの記憶を積み重ねてきた“生きた道”です。そしてその道を大切に思う人の存在が、緑園都市のまちの価値をつくり続けています。
この遊歩道を歩いていると、風景の一つひとつに“人の手”の温かさを感じました。丁寧に続けられてきた活動が、まちの景色となり、子どもたちの学びとなり、そして“自分のまちは自分たちでつくる”人々の誇りへと変わっていく――。
四季の径は、緑園都市の“人と自然が寄り添うまち“を描き続けています。
緑園都市近くにお立ち寄りの際は、ぜひ一度訪れてみてください。
##ライタークレジット
写真・文=はるの
#Information
特定非営利活動法人 緑園都市コミュニティ協会(RCA)
所在地:横浜市泉区緑園1-1-1 ボヌール緑園101号室
TEL:045-812-8307
メールアドレス:r-c-a@rca-yokohama.org
ホームページ:https://rca-yokohama.org
緑園都市緑化推進クラブ
TEL:080-6602-5358
メールアドレス:ryokka.shiki@gmail.com
SNS(Instagram):https://www.instagram.com/ryokka.shiki/
今後開催予定
・2026年春ごろ予定 四季の径ガイドツアー
・2026年5月 RCA花の頒布会
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