泉区中田発「おとむすび」 音楽を通して人と人の縁を結ぶ場を訪れてみませんか?
2019年4月、音楽療法士であり大学講師でもある小柳玲子さんが、地下鉄ブルーライン中田駅から徒歩2分の場所に「音楽スペース おとむすび」を作りました。活動は7年目を迎え、地域のさまざまな方が気軽に音楽に参加できる場として広がり続けています。音楽と人の接点に真摯に向かい合う小柳さんとお話をしてみたいと思い「おとむすび」を取材しました。
音楽スペース「おとむすび」って、こんなところ!
「おとむすび」は音楽と人との縁結びを願って名付けられた、子どもも高齢者も支援が必要な人もそうでない人も、自分らしく音楽にふれられるスペースです。
活動内容は多彩で、楽器演奏や歌のほか、子どもや支援が必要な方を対象とした定例企画を実施。さらに季節ごとのイベントも開催されています。
泉区の皆さん、場所は知っているという方も多いのでは?
関わる人も多彩です。活動を支えるのは、小柳さんを中心に、音楽療法士、演奏者、地域を支える福祉・介護・医療関係者、音楽に関わる大学院生、そこに参加者の有志が加わることもあり、まさに「みんなで作る」音楽スペースです。
小柳さんは、支援が必要な方も、そうでない方たちも、「場」を共有することでゆるやかなつながりが生まれる、「音楽」に共に参加することで一緒にいることが自然なことになる、そんな場所を目指しています。
筆者も参加した二つの定例企画をご紹介します。
オリジナルソングを使ったフレイル予防
「おとむすび」では、毎月第一木曜日に高齢者の健康維持促進のために音楽を取り入れたフレイル予防のプログラム「すこやか音楽クラブ」開催しています。また、年に数回は踊場ケアプラザと共催の教室も実施しており、今回はその会に参加してきました。
フレイルとは、心身の活力(筋力、認知機能、社会とのつながりなど)が低下した、健康と要介護状態の間の虚弱な状態を示します。フレイル予防のために必要なことは、「栄養」「身体活動(運動)」「社会参加」の3つといわれています。
前半は、踊場ケアプラザの職員さんと参加者の皆さんのプログラムが進みます。この日は歯科衛生士さんからのお話や、吹き戻し(口にくわえて息を強く吹くとヒューと伸び、息を止めると先からクルクルと戻ってくる紙のおもちゃ)を使ったトレーニングが行われました。後半から「おとむすび」の音楽を取り入れた「社会参加と口腔ケア」をサポートするプログラムが始まります。音楽療法士のYさんが指揮者になり、トーンチャイムを手に「もみじ」を参加者全員で合奏。最後の締めにピアノとウクレレで「おとむすびオリジナルの歌 すこやか中田のテーマソング」を合唱しました。
こちらの作詞作曲は、「おとむすび」でウクレレ・マエストロとして歌の会関係でも活躍中のIさん。小柳さんが編曲を手がけました。歌詞には、口腔ケアの体操で発音する「パ・タ・カ・ラ」の文字が含まれ、フレイル予防が音楽に取り込まれています。この曲が、いつか中田駅で流れることをスタッフ一同が願っています!
音楽があふれる認知症カフェ「結うカフェ」
毎月第二日曜の午後に開催している認知症カフェ「結う(ゆう)カフェ」にも訪問しました。認知症カフェは一般的に、当事者に情緒的なサポートが提供されることで、地域社会からの孤立を防ぎ、認知症の人と介護者の心理的負担を軽くしています。自己紹介から始まり、この日は「好きなきのこ」の話で盛り上がりました。
管理栄養士さん、大学院生、親子、ご夫婦など、参加者の皆さんから語られる「きのこ」のストーリーに合わせて、小柳さんがピアノで次々と歌をつなげてくれます。例えば「茨城県でしか採れない青いきのこハツタケ」の話題があがった際、「青」からの「ブルーシャトウ」や「ブルーライトヨコハマ」をピアノ伴奏で合唱しました。参加者のお話から連想される歌を全員で考え歌いながら、出身地や方言、以前の横浜市内の様子など、いろんな話をしました。
ほかにも「サン・トワ・マミー」のピアノ演奏に合わせて、大学院生のリードのもと全員でシェイカーやマラカスでリズムをとったり、「富士山の歌」を歌ったり、時折参加者のひとりが、その場の雰囲気に合わせてハーモニカを吹いてくれました。心地よい生演奏を味わいながら、楽しいひとときを過ごしました。
結うカフェ終了後、今思いついた曲をピアノで弾いてくれた方、スタッフとお話されながら、少しの間その場に残る方もいました。
泉区役所の高齢・障害支援課も、踊場ケアプラザと区社会福祉協議会と共に結カフェの立ち上げ支援、助言に関わった経緯があり「音楽があることが特徴で、安心して過ごせる居場所であり続けてほしい」と期待されている取り組みです。
小柳さんの想いと今後の課題
「おとむすび」を立ち上げた当初、活動を広げていくなかで、小柳さん自身の考え方も少しずつ変わり「音楽療法士の衣が一枚ずつ脱げていったように感じた」時期があったそうです。小柳さんは専門職としての立場や領域にとどまらず、地域の中に入っていくために自分の姿勢を徐々に開いていきました。
「今では、音楽に参加するだけではなくコミュニティの居場所としても楽しみに来てくれる人が増えています。泉区内外から音楽活動への参加を目的に集まってくださり、場にはコミュニティ感覚を持っていらっしゃいます。この二つの間を成り立たせるものを意識して、ちゃんと構成していきたいです。『おとむすび』で育つ音楽コミュニティ同士をつないでいくことも視野に入れています。
参加者からは『知らないうちに演奏した曲を口ずさんでいる』『カラオケで昔の曲を歌うと古いと思われないかと気にしていたが、今では堂々と歌えるようになった』といった声が寄せられました。音楽が生活に自然に入り込み、自分自身や音楽との関わり方を前向きに捉え直すきっかけになっていることが伝わってきます。
音楽を通じて人と人がつながり、地域で『コミュニティのあたたかさ』を育む場となること。そして、一人ひとりが音楽の力で元気を取り戻し、自分らしく過ごすための『エンパワメント(力づけ)』につながるよう、皆さんとの対話を続けていきたいと思っています」

歌とおしゃべりで思い切り発散できる月一回のエネルギッシュな会「歌倶楽部」。この日は荒井由美、アリス、和田アキ子、沢田研二、岩崎宏美など、参加者からリクエストが絶え間なく寄せられ、時間切れで次回に持ち越した曲もありました
小柳さんとスタッフの想い「DoingよりBeing」
小柳さんは笑顔でこう話してくれました。
「スタッフとも話をしているんですよ。”Doing(すること)”より”Being(いること)”だよね、って」。「おとむすび」では、誰もが”共にいること”が大切にされています。
そして小柳さんは、こんな風に考えています。
「ここでしか起きない音楽があります。隣にいる人や周りの歌声を感じて欲しい。背伸びをせず、今の自分の力で参加すれば自然にその人の良さが表れてきます。音楽を奏でれば、歌を歌えば、その人の良さが引き出されます。
『やらなきゃ』と力むのではなく、自然に参加できるプログラムを提供していきます。楽しみ方や広げ方を一緒に見つけていきましょう」
スタッフも口をそろえます。「参加者のみなさんは、来た時と帰る時で、雰囲気が変わります」
取材を終えて
「おとむすび」の活動に参加し、生演奏を聴いていると、心がほぐれるように感じました。思いがけない曲から、日々フタをしている感情や、自分でも整理しきれていなかった内面の葛藤が揺さぶられ、その一方で不思議と安堵感が広がります。
小柳さんとスタッフは録音された音楽は使わず、その場に合わせた音楽をリアルタイムに奏でてリードしてくれます。参加者皆さんとの会話と、その瞬間に創られる音楽が「その人の良さ、その人が本来持っている力」を引き出してくれます。一回限りの音の振動を全身で感じながら、参加者が呼吸をそろえることで「その人が持つ力」がそっと立ち上がり、場の空気が一体になる「今、ここ」だけの音楽を体験しました。参加者同士が「同じ釜の飯を食う」間柄になっていくような印象をもちました。
「おとむすび」は、泉区中田の土地に根付く、音のエコシステムのようです。音が人をつなぎ、人が場を育て、その場がまた音を生む。この循環は、”Doing”ではなく”Being”によって支えられているのかもしれません。
写真・文=西嶋美津子
音楽スペース おとむすび
住所 横浜市泉区中田東3-2-13
TEL 070-4343-6698(留守電専用)
MAIL otomusubiyokohama@gmail.com
WEB https://www.otomusubi-yokohama.com/
お問い合わせはWEBの「お問い合わせ先」をご利用ください。初めて参加される際は事前にご連絡ください。
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