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【泉区制40周年記念特別企画】泉区で活躍する熱い人②松本敏裕さん(美術教師・芸術家)

今年2026年、泉区は区制40周年を迎えました。これを記念して特別企画「泉区で活躍する熱い人」をリレー形式で紹介します。第二回は、約48年間にわたり教育者として歩み続けてきた松本敏裕さんです。

 

今回のインタビュー相手の松本さん

県立高校の工芸室で教え子からの思い出の作品を手に持つ松本敏裕さん

 

 

「作品は、人と人をつなぐきっかけになる」駅ギャラリーで地域へ届けた生徒たちの作品

 

県立高校で美術・工芸教育に携わり、多くの生徒と向き合ってきた松本敏裕さん。現在も工芸の授業を受け持っています。作品を地域へ届ける活動や、教え子たちとの交流を振り返る言葉には、一貫した教育観がありました。生徒作品の駅ギャラリー展示、世界で活躍する教え子との思い出、そして「きっかけづくり」を大切にしてきた教育への思いを紹介します。

 

教室で完成した作品は、学校の中だけで終わらせるものではない。松本さんは、教員時代からそう考えていました。

 

1985年に県立川崎高校から県立上矢部高校へ赴任し、生徒の作品を展示する陶芸展を相鉄いずみ野線緑園都市駅構内ギャラリーで約10年間開催しました。地域の方々が見にきてくださり、作品を通じて会話が生まれ交流ができました。

 

その後松本さんは、県教育委員会高校教育課指導主事・全国総合文化祭担当を5年間務めた後、県立弥栄東高校美術教諭、上矢部高校教頭、藤沢高校・希望ヶ丘高校副校長を歴任し、2013年に再び上矢部高校に陶芸部指導員・非常勤講師として戻ります。

 

その際、以前から交流のあった横浜市営地下鉄の関係者との縁もあり、踊場駅の展示スペースで生徒作品を展示する機会を得ます。美術陶芸コースや美術科の作品を定期的に展示し、一月ごとに作品を入れ替えながら、多くの駅利用者に見てもらいました。

 

駅で展示を見た人から、「うちの孫も上矢部高校だったんですよ」と声を掛けられることもあったといいます。「作品は、10人に1人でも立ち止まって見てくれれば意味があります」。展示品をきっかけに会話が生まれ、人と人がつながる。その積み重ねが、生徒たちの励みにもなっていきました。

 

踊場駅展示スペースに並ぶ生徒の美術作品

2014年〜2021年の横浜市営地下鉄踊場駅展示スペースの展示(書籍「古希記念松本敏裕展〜画伯と呼ばれた美術の先生〜」より)

 

「育てる」のではなく、「きっかけを作る」世界で活躍する教え子も

 

「私は、プロデューサーのような役割だったと思います」。松本さんは自身の教育をそう表現します。絵が得意な生徒には絵を。立体表現が得意な生徒には立体を。一人ひとりの個性を見極め、その生徒に合った表現方法を提案してきました。「こんなことをやってみないか」。その一言が、生徒の可能性を大きく広げることもあったといいます。

 

松本さんの教え子の中には、現在、国内外で活躍する美術家もいます。子どもの頃から驚くほど高い描写力を持ち、高校時代には体育祭で使う教室いっぱいの大きさの巨大な応援旗を、ほぼ一人で描き上げた生徒です。

 

後に本人は、「あの経験が自信になった」と振り返っています。その子は卒業後もしばらく学校に残り、制作を続けながら先生方の支えを受けて経験を積み重ねました。「もちろん誇りに思います。でも、一番努力したのは本人です」。松本さんは、謙遜の念にあふれていました。「私は、きっかけを作っただけです。『教え子』と呼ぶのもおこがましいので、『表現者』と呼んでいます」。その言葉は、取材の中で何度も繰り返されました。

 

一方で、全員を芸術家に育てたいとは考えていません。「普通のお母さんになってもいいし、会社員になってもいい」。大切なのは、どんな人生を歩んでも創造する楽しさを持ち続けること。ものづくりを通して得た経験や喜びは、その後の人生にも生き続けると信じています。

 

だからこそ、松本さんは最後まで「育てた」という言葉を使いませんでした。「私は、きっかけづくりを惜しまないだけです。あとは本人が自分の力で伸びていくんです」。その穏やかな言葉には、長年教育に携わってきたからこその確かな実感が込められていました。

 

取材中、松本さんは教え子や作品について語る一方で、自分自身の功績を誇ることはありませんでした。作品を見てもらう場所をつくることも、生徒の背中をそっと押すことも、すべては「きっかけ」を生み出すため。その積み重ねが、多くの卒業生や地域とのつながりを育み、今もなお受け継がれているのだと感じました。

 

椅子に腰かける松本さん

自分はきっかけを作っただけと話す松本敏裕さん

 

 

民具や骨董から学ぶ、人々の暮らし

 

自身も芸術家として活動してきた松本さん。県立上矢部高校勤務時代には、近隣の泉警察署と生活安全面の連携をしていたことから、署に作品を寄贈しています。

 

松本さんが警察署に寄贈した作品と、寄贈を報じる当時の新聞記事

左は松本さんが寄贈した息子二人を描いた130号サイズ(1,940mm×1,620mm)の作品、右は当時の新聞記事。現在は署の関係者が使用する部屋にあります(書籍「古希記念松本敏裕展〜画伯と呼ばれた美術の先生〜」より)

 

息子の亮平さんは現在画家として活躍しており、2025年11月13日掲載の記事で紹介しています。この時、取材者から父・敏裕さんの情熱的な人柄や活動について話を聞き、お会いしたいと思ったことが、今回の取材につながりました。

 

教育と並んで、松本さんが長年親しんできたものがあります。民具と骨董です。若い頃から大和市の骨董市や東京・京橋、日本橋周辺の骨董店へ通い、少しずつ知識を深めてきました。「最初は失敗もしました。本物だと思って買ったものが違ったこともありました」。そんな経験も学びの一つだったと笑います。

 

民具に興味を持つきっかけとなったのは、約6年前に古い火熨斗(ひのし、炭火を使うアイロン)と出会ったことでした。暮らしの道具に込められた知恵や美しさに魅了され、以来、骨董市などで民具を収集しています。

 

実業家であり民俗学者でもあった渋沢敬三は、民具を「一般庶民が日常生活の必要から制作・使用してきた伝承的な器具・造形物」と定義しています。松本さんの工芸の授業では実際に民具を並べながら、先人たちの暮らしの知恵を現代の生活と比較して学ぶ機会を設けています。

 

松本さんが魅力を感じているのは、古い道具そのものではありません。養蚕の道具、藍染めの道具、農具など、人々が日々の暮らしの中で使ってきた生活道具であるということです。そこには、その時代を生きた人々の知恵や工夫、暮らしの営みが詰まっています。

 

展示会では、絵画と民具を組み合わせることもあります。「物を並べるだけではなく、物に込められた人々の暮らしや、歴史を知ってもらいたいんです」。作品だけでは伝わらない背景を感じてもらうことも、大切な表現の一つだと考えています。

 

民具「芋洗い棒」を披露してくれる松本さん

民具である「芋洗い棒」。水を張った桶に土汚れが付いている芋を入れ、棒を桶に挿し仕込み、左右に数回回して土汚れを落とすそうです

蚕を育てる際に使用する道具を見せてくれる松本さん

蚕が食べる桑の葉を載せる網状の養蚕道具を広げてみせてくれました

骨董市で見つけた絵本を開く松本さん

骨董市で探し当てた、養蚕を営む一家を描いた当時の様子がよくわかる絵本

 

 

区制40周年を迎えて、地域の方へメッセージ

 

緑園都市駅構内ギャラリーや、踊場駅展示スペースでの生徒達の作品展示を通じ「陶芸を通して地元の方々と交流する良い機会になった」と、松本さんは振り返ります。

 

12月の個展では、泉区に明治時代に養蚕製糸場があった歴史にちなみ、養蚕道具をモチーフにした作品と、実際の民具を一緒に展示する予定です。「明治時代、日本最大の輸出品だった生糸は、横浜港から世界へ送り出されました。そうした歴史を身近に感じてもらえるよう、近隣の小学生や先生方にも楽しんでいただける展示にしたいと思っています」と、今から楽しみにされています。

 

また、今回の取材と掲載をきっかけに、自身の活動や泉区の歴史を知ってもらいたいとも語る松本さん。「多くの泉区の皆さんに足を運んでいただき、地域の歴史や文化に触れていただければうれしく思います」と話していました。

 

取材を終えて

 

県立高校の工芸室が取材場所でした。ドアを開け足を踏み込んだ瞬間、絵の具や粘土の匂い、溢れる道具に囲まれ、筆者は高校時代の美術科授業にタイムスリップしました。水彩画パレットを持った記憶や粘土を捏ねた手の感触が蘇り、松本さんが先生のように思え楽しく取材ができました。

 

踊場駅での展示は、当時、筆者も通勤途中に拝見しており、鑑賞に適した作品の配置や、丁寧な解説が添えられていることから、学校教育として続けるにはたいへんな尽力が必要だったのではないかと感じていました。それが松本さんの情熱によって実現していたことを知り、その行動力に深い敬意を抱きました。まさに「熱い人」でした。

 

写真・文=石井豊

 

 

いっずんから次の人を紹介

 

次回の「泉区で活躍する熱い人」は養護老人ホーム「白寿荘」施設長の「伊藤祐樹さん」だずん! 記事を掲載したら随時お知らせするずん!

 

松本敏裕さん

 

イベント「IZUMI TWINS OPEN DAY《9/5》」

  • 開催日 2026年9月5日(土)
  • 時間 10:00〜15:30
  • 場所 テアトルフォンテギャラリー

※松本さんが作成した陶芸作品を展示販売します

https://www.theatrefonte.com/event/detail/id=716

 

個展       「松本敏裕『民具を描く』その弐」

  • 開催期間 2026年12月21日(月)~27日(日)
  • 開催時間 10:30〜18:30(21日13:00~、最終日27日~16:00迄)
  • 開催場所 サブウェイギャラリーM(みなとみらい線みなとみらい駅下車1分)

※入場無料

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