和泉川の美観を21年間維持し続けてきた和泉川中央水辺愛護会の人びと
和泉川沿いの「水と緑を楽しむ和泉川健康のみち」は、私のお気に入りの散歩コース。川のせせらぎや野鳥のさえずり、四季折々の草花に癒されながら心地よく散歩ができます。川沿いでは、水辺愛護会というボランティア団体の皆さんが川中や遊歩道の清掃、草木の手入れをしている姿をよく見かけます。どのような思いで活動されているのかが気になった私は、いずみ中央駅付近を担当されている和泉川中央水辺愛護会の会長・寺田泉さんに声をかけ、お話を伺うとともに、活動の様子を取材させていただきました。
4つの目標を掲げて活動する和泉川中央水辺愛護会
和泉川中央水辺愛護会(以下、同会)は、泉区に17もある水辺愛護会の一つ。横浜市下水道河川局の認証団体として2003年7月に発足し、毎月2回2時間の定例活動のほか、会員が自発的に随時活動しています。主な活動内容は、①川中や遊歩道のごみ拾い、②枯れ草や枯れ枝および落ち葉などの回収、③下草の刈り取りと除去、④園芸草木の手入れです。
活動目標は4つあります。
・健康
会員の平均年齢は70代後半で、高齢者が多いため、まずはラジオ体操で身体をほぐしてから活動するようにしているそうです。活動を通して体を動かし、健康な身体づくりを心がけているとのことでした。
・景観・美観
水と緑を楽しむ和泉川健康のみちを利用される皆さんに「綺麗なところだから、また来たい!」と思ってもらえるように花壇を整備したり、遊歩道や川の清掃活動をしたりするほか、植え込み部分に生えた雑草を抜いて歩きやすいように努めているそうです。また、保育園児が毎日のように来ているため、幼児の背の高さでも川の流れが見られるようにのり面(=堤防の斜面)の草木の高さを調整したり、木の間隔をあけたりしているとのこと。優しい配慮に感動しました。
・環境
地蔵原の水辺などにみられる葦はカワセミの住処です。つい人間のことを第一に考えてしまいますが、魚や野鳥など生物が住みやすい環境にも配慮が必要ということで、ごみを取り除くだけではなく、鯉などの魚が遡上しやすいように魚道を確保したり、樹木を覆うつる性雑草を除去したりするなど、環境保全を意識して活動しているとのことでした。また、作業中は同会の安全ベストを着用するほか、通行者に知らせるためにカラーコーンを設置し、のぼりを立てて安全を確保しています。
・親睦
活動後にお茶を飲みながら雑談をしたり、日常生活についての相談をしたり、お花見や納涼会、忘年会など、楽しみながら活動するようにしているそうです。
目下の課題は、人手不足です。登録会員数は22名(2024年11月現在)で、そのうち定例活動日の参加人数は10名前後のため、約1.2kmの担当範囲を清掃するには人手が足りず、毎回やり残しが発生しているとのこと。「会員の高齢化や病気、家族の介護などの理由で活動が困難になり、休会や退会する方が増えてきました。また、新規加入者が増えないのは、定年延長の影響もありそう」と寺田会長は困り顔になっていました。
加入促進対策として、道具保管倉庫に掲示板を設けて活動紹介を掲示したり、定例活動日にチラシを入れた看板を立てたりして通行者にアピールするほか、ブログでは、活動状況以外に、和泉川で見かける野鳥や沿道の草木の紹介などの情報発信をしているそうです。このほか、横浜市泉区社会福祉協議会のサイトにボランティア募集を掲載したところ、親子で参加してもよいか? との連絡があり、その方は2024年12月に体験後、入会が決まりました。「このような地道な活動でじわじわと広がってくれたら嬉しい」と寺田会長。さまざまな形で露出を拡大した結果、2024年は3名が新規入会しました。
学校連携 和泉川周辺ふれあい清掃に密着
活動人数が減少するなか、同会では学校と連携した美化活動に力を入れているそうです。「毎年複数の学校から活動への参加要望があります。一緒に清掃活動をすることで我々の活動を知ってもらい、地域の美化に関する意識を高め、将来活動に参加する人が増えてくれたら嬉しい」と笑顔で話す寺田会長。
2024年11月23日の定例活動日は、横浜市立中和田中学校の生徒たちが「泉わくわく応援隊(=小学4年生から中学3年生までの児童・生徒による地域活動ボランティア)」としてお手伝いに来ると聞き、その活動模様を見せてもらいました。参加したのは、同校の吹奏楽部、剣道部とボランティア部に所属する1年生と2年生に加え、校長先生、副校長先生および各部の顧問の先生、総勢40名です。
いずみ中央駅前のケヤキ並木が落葉の時季だったため、歩道や植え込みに溜まった落ち葉を収集することになりました。ラジオ体操後、学校から持参した清掃用具と寺田会長お手製の道具で落ち葉を集め、収納袋に入れていきます。集めた落ち葉は、泉区の農家にわたり、腐葉土にして農作物のたい肥になるそうです。そのため、落ち葉に紛れているタバコの吸い殻などのごみを分別しながら収集していきます。
実際に収集し始めると、歩道からはタバコの吸い殻や紙くず、植え込みからはペットボトルや空き缶、弁当の空容器などが次々と出てきました。1時間ほど活動した結果、16袋分の落ち葉を収集することができました。
活動後は、寺田会長から参加者に向けて労いの言葉とともに「活動中、さまざまな香りがしたのではないでしょうか? 清掃をしていると四季折々さまざまな香りがして、自然を感じることができます。またやってみたいと思ったら、ぜひ一緒にやりましょう。待っています」とのあいさつがありました。
代表生徒からは、「このような活動は初めてでした。皆で協力して楽しい活動ができました。ありがとうございました」とお礼のあいさつがありました。
一緒に活動した松田哲治校長先生は、「タイムオーバーでやり残しがあり、心残りもありますが、綺麗になった遊歩道を見ると達成感もあります。また、通りすがりの人たちから、ありがとうや、ご苦労さんと声をかけられ、気持ちが和みました。今後も機会があれば参加してもらえればよいと思います」と話していました。
清掃されて綺麗になった遊歩道を見ると、清掃活動に参加していない私でも清々しい気持ちで満たされました。
会員にミニインタビュー
定例活動後のお茶タイムにお邪魔して、副会長、新規加入者や10年前に加入された会員に、入会したきっかけややりがいについてお聞きしました。
・草むしりが大好きになりました
2024年9月に入会された永井千賀子さんは、同会のチラシをみて興味を持ったそうです。
「水と緑を楽しむ和泉川健康のみちは、いつ来ても綺麗だと思っていたら、その裏には会の活動があることを知ることができました。私にとって草むしりは楽しい時間で、とても清々しい汗をかくことができます。健康維持と美化活動の充実感が味わえています。草むしりを始めるとつい没頭してしまいますが、活動時間は2時間までと区切りがあるため、しっかりと時間内に終えることができています。
会員の皆さんはとても優しい方々で、学ぶことが多いです。たとえば、草花の名前や、この樹木は誰が植えたなど、20年超えの活動が諸々伝わってきます。作業後に皆さんと和やかにお菓子を囲んでお茶を飲む時間も楽しみの1つです」
これまでもさまざまなボランティア活動をしてきた永井さんは、2024年5月末には石川県珠洲市へ災害ボランティアに行ったそうです。「多くの感動をもらった石川県に恩返しがしたいと思い、時機をみてようやく行くことができましたが、復興にはまだまだボランティアの手が必要」と、石川県のことを気にかける優しさが伝わってきました。
・町を綺麗に
2015年7月に入会した永島恭子さんは、当時、男性が独りで除草作業をしている姿をたびたび見かけ、「泉区は毎日清掃して美化活動に熱心ねぇ!」と感心していたところ、その男性が区役所の人ではなく、泉区民がボランティアとして活動していることに気づき、深く感銘を受けたそうです。
「その男性がまさしく寺田会長でした。キラキラした目で『一緒に活動しませんか?』とお誘いいただいたのをきっかけに入会しました。会員の皆さんには大歓迎されましたが、これまで除草作業などは未経験でしたので、ボランティアを始めたことを若い頃から知る友人に話したら、『あなたらしくないわ。きっと長続きはしないでしょう』と言われてしまいました。ですが、実際に活動してみると、土に触れる安らぎ、人とのふれあい、川のせせらぎや野鳥の声に癒され、のびのびとした幸せな気持ちで、現在に至るまで約10年間楽しく活動できています。」
同会でやりがいを感じた永島さんは、同会の活動以外にも自分で自由に活動をしようと思いたち、3年前から立場駅周辺を単独で清掃し始めたそうです。すると、通行者から感謝や労いの言葉をかけられたり、飲み物の差し入れをもらったりと、予想外の反応があったそう。自分の住む町が綺麗になっていく達成感以外に、見知らぬ人々からの温かい言葉がとても嬉しかったそうです。
さらに、最近は立場駅付近で除草作業をされる方が5名ほど現れ、永島さんが作業する前に綺麗になっていることもしばしば。町を綺麗にする活動が広がったことに嬉しい気持ちになったそうです。「あなたらしくない」と言っていた友人にも「素晴らしい」と褒められたとのこと。私も同じように、永島さんに対して素晴らしいと尊敬の念を抱きました。
・海の人から森の人に
コロナ禍で趣味のスキューバダイビングができなくなった林直子さんは、この機に近所の川の清掃をして、川から海への流入ゴミを減らそうと考え、夫とともに3年半前に入会したそうです。
「路上のごみが川に落下して海に流れていくため、除草や路上清掃、ごみ拾いは海の生物の安全につながる価値ある作業だと気づき、俄然やる気がおきました。また、綺麗になった遊歩道を見ると達成感も得られます。黙々と除草していると無心になり、草花とコミュニケーションがとれます。この無心になれる時間が私にとっては心地よいです。
なお、入会前の私は虫が苦手で、除草中に出てきたらどうしようと思っていたのですが、虫の方が大慌てで逃げ出す姿を見て以来、落ち着いて対処できるようになりました。夫にも『変わったね』と言われました」
現在、副会長を務める林さんは、新たな試みもされていました。
「SDGsや生物多様性に関心があります。同会では雑草は根こそぎ刈る方針ですが、調べてみると、5センチ残して刈る方が良いと書かれた文献がありました。本当にそうなのか? 実験するため、一部のエリアで試した結果、文献どおりとはならず雑草の生命力に負けました。ただ、この実験で各草の習性がわかり始めました。雑草によっては効果がありそうなので、今後は対策を検討しつつ試行錯誤をくり返す予定です。
また、落ち葉はごみとして捨てていますが、これをたい肥として循環できないか?と考え、泉区の農家さんに渡してたい肥として役立ててもらうことを提案しました。ようやく落ち葉を引き取ってくれる農家さんが見つかり、2024年11月の定例活動で集めた落ち葉を資源として循環することができました。今後はこの循環を加速していきたいと考えています」
林さんは、森作りのボランティア活動にも参加し、横浜市の森を守る活動もはじめたそうです。天王森泉公園でいきもの観察会などを実施しているとのこと。ボランティア活動にすっかりはまった林さん、スキューバダイビングはお休み中だそうです。
今回は寺田会長と林副会長、2名の会員さんにお話を聞きましたが、このほかの方々にもお聞きしたくなるほど、魅力あふれる皆さんでした。和泉川の美観は市民ボランティアの皆さんによって維持されていることがわかり、心から感謝の気持ちでいっぱいになりました。ごみとして扱われていた落ち葉を資源として循環する仕組みも素晴らしいですね。
一方、美観を維持しようとする人とポイ捨てをする人、どちらも人のやることです。自身のごみはその場に捨てず、持ち帰る人が増えることを願ってやみません。
同会では、随時会員を募集しています。興味がありましたら、まずは体験してみませんか? ホームページにはさまざまな情報が記載されていますので、ぜひご覧ください。
ライタークレジット:
写真・文=泉区ローカルライター 蒲喜美子
取材協力=泉区ローカルライター 横山真由美
Information:
・和泉川中央水辺愛護会
https://izumigawachuoumizubeaigokai.hateblo.jp/
・泉わくわく応援隊
・森づくりボランティア
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/midori-koen/midori_up/1mori/volunteer/morivolunteer.html
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