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三代にわたり受け継がれる“あんこ”の味と想い 上飯田「清水製餡所」

食べるとほっこりするやさしい甘さの「あんこ」。私がそのおいしさの魅力に気が付いたのは大人になってからです。子どもの頃は洋菓子一択でしたが、今では和菓子屋さんの前を通ると気になって素通りできません…。和菓子には欠かせないあんこをつくるあんこ屋さん、実は泉区にあるのをご存じでしょうか。創業から約70年続く老舗「清水製餡所」です。地域に根ざしたあんこの名店として、清水製餡所の歴史と味の秘密を紹介します。

 

粒あん、羊羹など、テーブルの上に並ぶ商品

清水製餡所の商品いろいろ、取材にあわせて商品をきれいに並べてくれました

 

 

1 泉区に古くからある製餡所

 

相鉄いずみ野線「いずみ中央」駅を降りて、長後街道を長後方面へ。上飯田団地入口交差点を右折してしばらく歩くと、清水製餡所の直売所と工場が見えてきます。外観からも長い年月を重ねてきた老舗であることが感じられます。

 

取材の約束より少し早く着いてしまったため、周囲を歩いていると、同じ方向に向かう女性の姿が。後ほど直売所で再会し、思わず笑ってしまいました。

 

「あなた!さっき周囲をウロウロしていたわよね?」

はい、怪しくてすみません…。その方は清水製餡所のあんこのファンで、毎年この時期に知人へのお土産も兼ねて買いに来られるそうです。「あんこをビニール袋に入れて平たく伸ばして冷凍しておけば、家で長く餡バタートーストが楽しめるわよ」と、食べ方のコツを教えてくださいました。

 

直売所外観

素朴なたたずまいの直売所

 

 

2 創業から70年 三代続く製餡所

 

今回の取材では、工場長の荻野(おぎの)つね子さんにお話を伺いました。なんと御年92歳、現役で今も工場を見守りながら、直売所の店番もこなしています。

 

清水製餡所の歴史は、つね子さんのお兄さんが1950年に横浜市南区で生餡(なまあん)の工場を始めたことからスタートしました。その後、つね子さんも手伝うようになり、1956年に「清水製餡所」が誕生。2026年には創業70年を迎えます。

 

現在の泉区にある工場は1967年に建てられました。当時この地域は戸塚区に属していたため、工場の壁には今でも「戸塚工場」という文字が残っています。工場に隣接した直売所は、地域の方々が気軽に立ち寄れる場所として長年親しまれてきました。

 

現在は、初代のお孫さんにあたる健一さんが三代目として継がれています。「商売は初代で終わってしまうことが多いけれど、こうして三代続いたことは本当にありがたいです」と、つね子さんは穏やかな笑顔で語ってくれました。

 

取材対応をしてくださった工場長の荻野つね子さん。92歳。

お話を伺った工場長の荻野つね子さん、92歳の現役工場長です

清水製餡所の工場外観。「戸塚工場」という文字が残されている。

清水製餡所の工場外観、「戸塚工場」という文字が残されています

 

 

3 あんこ作りのこだわり

 

あんこ作りの工程で最も重要なのが「煮る」「練る」作業。味を左右するこの工程は熟練職人の感覚が頼りで、代々受け継がれてきた技でもあります。「三代目はとてもよい餡を練るよ」。目を細めながら話すつね子さんの表情がとても印象的でした。

 

あんこ作りで最も大変なこと、それは工場内の“暑さ”。小豆を煮るため工場内は常に高温多湿で、夏場は外気36度でも「外のほうが涼しい」と感じるほど。小豆を煮るだけで2~3時間はかかるため、作業全体だと長時間に及びます。あんこ作りは暑さとの闘い、体力のいる作業でもあるのです。

 

このようなあんこ作り、清水製餡所では大切にしている“こだわり”が三つあります。一つ目は良質な小豆の厳選と小豆の状態に合わせた煮加減や練り加減、二つ目に白ザラメなど砂糖2種類を使った上品な甘さ、そして三つ目は…。「おいしいものを作りたいという気持ち。『あんこを買うならここ!』と言ってくださるお客様がいることはとても励みになるわね」 と、つね子さん。作り手の真心は、お客様にしっかりと伝わっているようです。

 

 

4 人気の商品「アイスキャンデー」と「てまり焼き」

 

人気商品の一つ「アイスキャンデー」は、初代の発案で始まりました。固まったアイスキャンデーを型からはずして1本ずつ袋詰めをするのは昔から変わらず、すべて人の手。時間と手間がかかっています。

 

私も実際にいただきました。すこし溶けた頃が食べごろ。一口食べると—「んんっ! 懐かしい味!」やさしい甘さと昔ながらの味わいに癒されます。

 

このアイスキャンデーは過去にテレビや雑誌でも紹介され、民放の有名なバラエティ番組に出演したこともあります。「出演依頼が来たときはお断りしたのだけど、孫に『おばあちゃん、絶対に出るべきだよ!』と背中を押されてテレビ局まで行ったのよ。出演したおかげで、番組を見た方が遠方から買いに来てくださったこともあったわ」。遠くは埼玉や名古屋から訪れるお客様もいるという、知る人ぞ知る人気商品です。

包装されたアイスキャンデー

やさしい甘さのアイスキャンデー、包装もどこか懐かしい

 

もう一つの人気商品「てまり焼き」はつね子さんの発案で、一般的に言う“今川焼き”のことです。「てまり焼き」という名前は当時働いていた事務員さんが、“かわいらしいから”と名づけたそう。その名のイメージに合うように若干小ぶりの食べやすいサイズにしています。

 

種類は定番の小豆あんと、白いんげん豆を使った白あんの2種類。実際に食べてみると、小豆あんは生地との甘さのバランスが絶妙で、いくつでも食べられる軽やかさ。白あんは、生地に白いりごまがついており、香ばしいアクセントが楽しめます。取材した時はちょうどてまり焼きが焼きあがる時間帯。次々とお客様が訪れ、地元での人気ぶりを実感しました。

 

お盆に乗ったてまり焼き。二つに切った切断面からは美味しそうな小豆あんが見える。

てまり焼き(小豆あん)、生地とあんこの甘さが絶妙にマッチ

お盆に乗ったてまり焼き。二つに切った切断面からは美味しそうな白あんが見える。

てまり焼き(白あん)、白いりごまがアクセントになっています

 

 

5 製餡所を続けていくことの厳しさ

 

和菓子には欠かせないあんこ。しかし近年、その和菓子屋さんが年々減少しており、あんこを卸す先も少なくなっているそうです。さらに、あんこ作り職人の高齢化や後継者不足も深刻な問題です。そこに追い打ちをかけるのが、昨今の物価高騰や気候変動。猛暑やゲリラ豪雨などによって小豆の収穫が不安定になり、原料不足が起こることも少なくありません。

 

それでもつね子さんは言います。「製餡所を続けていくことは正直厳しいし、あんこ作りは重労働だから楽しい気持ちよりもきつい方が先に来るけれど、あんこを買いに来てくれるお客様がいる間はやめるわけにはいかない。うちはありがたいことに三代続いているし、しっかり製餡所を守っていきたい」。厳しい現実の中でも、まっすぐ前を向いて語るその姿に、胸が熱くなりました。

 

 

6 地域の人たちとのつながり

 

取材中、工場の外観や直売所の写真を撮っていると、棚の一角に棒寒天が並んでいるのが目に留まりました。これは「あんこの使い方がわからない」というお客様のために、自宅で水ようかんなどを作ることができるように販売しているのだそうで、レシピも用意されていました。

 

さらに店内には、地元の小学生からの手紙が貼られていました。工場見学を実施した時に生徒たちが書いてくれたものだそうです。「『あんこは好きじゃないけど、ここのあんこはとってもおいしいから好き!』と地元の小学生が言ってくれたことがうれしかったの」。その言葉には、あんこの良さやおいしさを地域の方たちを通して未来に伝えたいという、製餡所の想いが詰まっていました。

 

店頭に並ぶ商品。棒寒天、白玉粉など。

棒寒天の他に、白玉粉なども並んでいました

地元の小学生から届いた手紙。店内に掲示している。

地元の小学生からのお手紙、地域とのつながりも大切にしています

 

 

7 「あんこを後世に残したい」という想い

 

「てまり焼きをメインで売る店ではなく、うちはあんこ屋なのよ」。取材中、従業員の方が言ったこの一言にハッとしました。アイスキャンデーやてまり焼きなど人気商品が注目されがちですが、清水製餡所の根底にあるのはあんこの良さやおいしさをもっと知ってほしいという想い。それは日本の食文化としての「あんこ」を後世に残していきたいという願いにもつながっています。

 

最後に、つね子さんに泉区の魅力を尋ねると、穏やかな笑顔でこう答えてくれました。「きれいな富士山が見えることね。私は静岡県清水市の出身だけど、こんなにきれいな富士山は見えなかった。富士山を見るととてもありがたい気持ちになるわ」

 

後日、私は最初に出会ったお客様に教えてもらった通り、冷凍しておいた粒あんで「餡バタートースト」を作ってみました。「あんこを買うならここ!」お客様が言っていた言葉の意味が、ようやく分かりました。

 

70年もの間、職人の技とこだわりで受け継がれてきた“清水製餡所のあんこ”。そのやさしい甘さと温かい想いを、ぜひ一度味わってみてください。

 

 

##ライタークレジット:

写真・文=荒井陽子

 

##Information

株式会社清水製餡所

横浜市泉区上飯田町1124−3

アクセス:相鉄いずみ野線いずみ中央駅徒歩14分

電話:045-802-1523

営業時間:9:30〜16:00

定休日:木・日曜日

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