【泉区制40周年記念特別企画】泉区で活躍する熱い人④ 飛田秀樹さん(ソーシャルフットボール選手)
今年2026年、泉区は区制40周年を迎えました。これを記念して特別企画「泉区で活躍する熱い人」をリレー形式で紹介します。第4回は、横浜を中心に活躍するソーシャルフットボールチーム「FC PORT」の選手、飛田秀樹さんを訪ねました。
プレーで大切にしているのは「楽しむこと」
蝉時雨に包まれた、真夏の一日でした。ソーシャルフットボールの関東大会が行われた体育館には、シューズの擦れる音と、ボールが床を打つ音が響いていました。汗をにじませた選手たちの息づかいに、仲間を呼ぶ声が重なります。目の前で繰り広げられていたのは、ボールの行方を追うのがやっとなほど、目まぐるしい攻防でした。
ボールが右サイドへ転がった瞬間、コートのあちこちから同じ名前が飛びます。「トビー、いけ!」「トビー、ナイス!」声の先を走っているのが、FC PORTの飛田秀樹さんです。主なポジションは、攻撃と守備の両方に関わる「アラ」。一対一の攻防や、前線から相手にプレッシャーをかける動きに自信があります。ボールを奪われれば、すぐに追う。最後まで足を止めない粘り強さが、飛田さんの持ち味です。
ソーシャルフットボールは、精神障害のある人を中心に行われている、フットサルを基にした競技です。試合は男女混合の場合は6人制、男子のみの場合は5人制で行われます。飛田さんが所属するFC PORTは、神奈川県ではじめて精神障害者フットサル大会が開催された2009年に活動を始めました。医療機関や福祉施設のプログラムとしてではなく、選手や関係者が話し合いながら運営してきた、全国でも数少ない当事者主体のチームです。
現在は月に2回ほど、横浜ラポールのグラウンドをはじめ、神奈川県内のスポーツセンターで練習しています。練習メニューは、その日の参加者に合わせみんなで考え、初心者も経験者も一緒に楽しめるよう工夫しています。誰もが一緒に楽しめることは、FC PORTらしさの一つです。
飛田さんは幼い頃に発達障害と診断され、成長するにつれて人間関係に悩む中で、精神障害を抱えるようになりました。中学生の頃にFC PORTへ入り、28歳の今は、チームを支える選手の一人として力を発揮しています。
試合後に、プレーで大切にしていることを尋ねると、返ってきたのは、技術や戦術の名前ではなく、「楽しむことです」という一言でした。仲間と声を掛け合い、一つひとつのプレーに力を尽くす。その姿に、飛田さんが大切にする「楽しむこと」が表れていました。
はじまりは、一本のシュートへの憧れから
サッカーとの出会いは、幼稚園の年長の頃でした。遊びでサッカーをしていたとき、友達が鮮やかなシュートを決めました。「あんなきれいなシュートを打ちたいと思ったんです」。勢いよく飛んでいくボールへの憧れから、地元のチームでサッカーを始めました。
中学生になると、母親の勧めで、プロを目指す選手も集まるジュニアユースへ進みます。ところが、入ってすぐに、周囲との熱量の違いに悩みます。飛田さんが望んでいたのは、仲間とサッカーを楽しむことでした。勝っても負けても「今日はいい試合だった」「あそこは、ああすればよかった」と語り合う。その時間も含めてサッカーの魅力だと考えていました。
しかし、周囲はプロを目指す選手ばかりで、チームメイトは常にライバルでした。さらに、発達障害に起因するコミュニケーションの難しさも重なり、仲間からは「空気が読めない」など、心ない言葉を向けられることもありました。生きることさえつらくなり、自殺を考えることが何度もあったといいます。心身ともに追い詰められ、加入から1年足らずでチームを離れました。
そうした中でも、サッカーを諦めたわけではありません。自分らしく、サッカーを楽しみたい。その思いは、消えることなく心に残っていました。そんなときに出会ったのが、現在も所属するソーシャルフットボールチームFC PORTでした。初めて参加したとき、周囲は大人ばかり。同じ年頃の選手は一人もおらず「大人の人たちとプレーするのは怖かった」と話します。それでも通い続けるうちに、遠く感じられた大人たちは、声を掛け合い、同じボールを追う仲間になっていきました。
FC PORTでみつけた、働く一歩、歩み続ける力
2017年、FC PORTは愛媛県で開催された全国大会で準優勝しました。当時の監督からプレーを高く評価され、選手として認められたことが何よりもうれしかったと飛田さんは語ります。大会の光景と監督の言葉は今も鮮明に心に残り、競技を続ける支えになっています。
FC PORTには、仕事に就きながら競技を続ける選手が数多くいます。「社会に出ようと思ったのも、ソーシャルフットボールなんです。働いている仲間を見て、自分もそうなりたいと思いました」プレーを認められた経験と、働く仲間の姿。チームで重ねた時間が、競技を続ける力と、社会へ踏み出す思いを育てました。
そうした経験を重ねてきた飛田さんは、FC PORTを「神聖なもの」と表します。「自分にとって、神聖なもの。本当に神聖なものとしか言いようがないです」。母親も、FC PORTは息子自身が築いてきた大切な世界だと受け止めています。チームで育まれた関係を尊重し、飛田さんがそこで過ごす時間を静かに見守っています。
「自分ではない誰か」になれる読書と、自分らしい生き方
コートの外でいつもそばにいるのは、愛猫の「メロ」と「もも」です。飛田さんには、一日のうちでも気分が高揚したり、深く落ち込んだりする波があります。それは、自分の意思で思うように抑えられるものではありません。そうした日々にあって、家で猫たちと過ごしたり、好きな本を読んだりする時間は、大切なひとときです。小説から世界情勢を論じる本まで、手に取るものは幅広く、「雑食なんです」と話します。
「本を読むと、自分ではない誰かになれる気がするんです。少し頭がよくなったような気もします。実際は、そんなことないですけど」。最後の言葉に、飛田さん自身も笑います。本の中で、自分とは異なる誰かの人生をたどり、知らなかった考え方に出会う。読書は、飛田さんの世界を静かに広げてきました。
一方で、本や記事で障害のある人の人生が語られるとき、失敗や挫折の物語か、特別な才能によって大きな成功を収めた物語のどちらかに偏っているように感じることがあるといいます。「そうじゃないですよね。欲しいのは、その中間なんです。『いろいろあったけれど、そこそこ幸せになりました』という話があってもいいと思うんです」
子どもの頃、飛田さんは「普通の人になりたい」と願っていました。働き、結婚して家庭を持ち、車を運転する。そんな将来を思い描いていたいと言います。成長し、病気や自分の置かれた状況と向き合う中で、その頃とは少しずつ違う視点から、自分のこれからを考えるようになりました。
一人暮らしへの準備と、プレーの先に描くチームの未来
飛田さんはこの秋から、一人暮らしに向けた準備を進めています。主治医が紹介してくれたのは、発達障害のある人の生活を支える仕組みを備えた住まいです。そこで、将来の生活に向けた経験を積んでいく予定です。「楽しみというより、いつかは一人で暮らさなければいけないことだから」。その言葉には、一人暮らしを、これからの自分にとって大切な一歩と捉える思いがにじみます。
飛田さんは、FC PORTとの今後の関わり方も考えています。チームには会計の専任者がいません。将来、プレーとは異なる形でもチームを支えられるよう、簿記の勉強を始めました。「プレーすることだけが、ソーシャルフットボールのすべてではないんです。運営だったり、スタッフだったり、プレー以外にも活躍できる場所はあります。むしろ、いろんな役割の人がいないとチームは成り立たないんです。だから、興味を持ったなら、『これなら一緒にできる』を見つけて、一緒に楽しんでほしいと思います」
サッカーと地域活動、二つの場所で人の役に立ちたい
飛田さん一家は2011年から泉区に住んでいます。全国大会で結果を残した際には、一家が暮らす岡津西部町内会の集まりでその活躍が紹介されました。地域の人たちは、家族のことのように喜んでくれたといいます。そんな地域の温かさに支えられながら、飛田さんも町内会の行事に積極的に参加してきました。
試合を翌日に控えた夏祭りでも、率先して焼き鳥を焼き、準備や運営を手伝う姿がありました。町内会の相談役は、「彼は明るくて真面目。町内会の祭りを積極的に手伝ってくれている、心強い存在です」と話します。
飛田さんが暮らす地域では、このように障害がある人と町内の温かな関わりが育まれていますが、地域や人によっては、精神障害について知る機会がまだ十分ではない場合もあります。そのことが、思い込みや、本人の力だけでは越えにくい壁につながることもあります。
飛田さんの家族は、障害について地域の人に伝えることを大切にしてきました。母親は、自分たちの場合、障害をオープンにして事情を知ってもらったことが、地域の人と互いに安心して暮らす助けになったと話します。さらに、息子の競技や地域活動を通じて新たな知り合いができ、異なる立場の人の思いに触れたことで、世界が広がったといいます。
区制40周年を迎えて、地域の方へのメッセージ
「障害があるからといって、やりたいことを諦める必要はないということです。」泉区の皆さまへ伝えたいことを尋ねると、飛田さんはそう話しました。
かつて飛田さんは、「障害があるから、人の気持ちが分からない」と決めつけられたことがありました。傷ついた思いをFC PORTの仲間に話すと、「それは違うよ」と答えてくれたといいます。仲間の言葉や、さまざまな人たちとの出会いを通して、一つの見方だけが答えではないことを知りました。そのことに気持ちが救われ、物事の捉え方が変わっていったことは、飛田さんにとって大きな転機となりました。
できることも、望むことも、一人ひとり違います。一つの物差しで自分や誰かを決めつけず、その可能性を狭めないこと。飛田さんはその思いを、ソーシャルフットボールを通して伝えたいと考えています。
取材中、飛田さんが何度も口にしたのが、「地続き」という言葉でした。今の暮らしも、その先にある未来も、切り離されることなく続いている。障害のある人もない人も、同じ地域や社会で暮らしている。「地続き」には、飛田さん自身の経験と、社会に向けるまなざしが重なっているように感じました。
最後に、ソーシャルフットボールに関心を寄せ、応援してくれる人たちへ感謝を伝えました。「いろいろなきっかけで興味を持ち、応援してくださることは、本当にありがたいです」
コートでも地域でも、人と関わりながら、自分らしい歩みを重ねる飛田さん。ボールを手にしたその視線は、静かに前を向いていました。
取材・文:澤田章江 写真:文花(ご家族提供写真を除く)
FC PORT
https://fcport2009socialfootball.my.canva.site/
第6回「精神障がい者フットサル」ソーシャルフットボール全国大会(神奈川開催)
日時:2026年11月21日(土)、22日(日)
会場:アサンテスポーツパーク アリーナ1(神奈川県立スポーツセンター/小田急江ノ島線「善行駅」徒歩8分)
泉区のこころの病気や生活上の不安、障害福祉サービスの相談
泉区福祉保健センター 高齢・障害支援課 障害者支援担当(泉区役所2階209番窓口)
電話:045-800-2446
精神保健福祉相談:月曜日~金曜日(祝日、休日、年末年始を除く)8時45分~17時15分(12時~13時を除く)/予約制
https://www.city.yokohama.lg.jp/izumi/kenko-iryo-fukushi/kenko_iryo/kokoro/menta-soudan.html
※掲載している情報は、2026年10月27日現在のものです。
※このコーナーの記事は、泉区が大好きな「泉区ローカルライター」が、区民の目線で取材し、執筆しています。
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