【泉区制40周年記念特別企画】泉区で活躍する熱い人③ 伊藤祐樹さん(養護老人ホーム白寿荘)
今年2026年、泉区は区制40周年を迎えました。これを記念して特別企画「泉区で活躍する熱い人」をリレー形式で紹介します。第三回は養護老人ホームの施設長としての職務にあたりながら、地域とのつながりを自然体で、そして広く深く築いてきた伊藤祐樹さんです。
地域に開かれた養護老人ホーム白寿荘
伊藤さんは、定員70名の養護老人ホーム白寿荘の施設長です。養護老人ホームとは、環境や経済的理由で生活が困難な65歳以上の高齢者が入所し自立のための支援を受けられる、老人福祉法のもとに定められた社会福祉施設です。
「自立」と言っても、施設からの退所をゴールとしているわけではありません。施設の中で「自立した生活を送ること」が目的です。そのため、入所者は、部屋の掃除、洗濯といった身の回りのことを自分で行います。有志でお風呂の掃除、近隣の道路清掃、網戸や障子の張替えもしています。 白寿荘のスタッフは、食堂での食事の提供、金銭の管理、外出の支援、通院同行、 相談業務、健康管理などの支援をしています。
入所者の多くは、環境や経済的困難を抱えながら、心身の健康の支援を必要としている方々です。
相談員、支援員、看護師、栄養士 などの専門職と、外部の医療機関が連携しながら生活を支えています。
よく耳にする「特別養護老人ホーム(特養)」は、介護を必要とする高齢者を前提としたサービスです。養護老人ホームはあくまで自立した生活を送るための支援を行う施設で「社会的な最後の砦(セーフティネット) 」と言われ、横浜市内には6カ所あります。
伊藤さんの業務は、マネジメントや経営状況の把握といった管理職としての仕事から、入所者のお話の傾聴、時には入所者同士の言い争いの仲裁まで、多岐にわたります。
また、施設のステージで開催される学生イベントも、大事な業務の一環です。出演オファーや調整、リハーサル対応から当日の会場セッティング、司会進行に至るまで、現場スタッフの方も打ち合わせ段階から積極的に参加し、伊藤さんを中心にチーム一丸となって準備と運営を進めています。
これらのイベントは、入所者のためだけではなく地域にも開かれており、施設と地域をつなぐ大切な場となっています。
大学生が公演! 白寿荘独自のイベントは見ごたえのある素晴らしいステージ
白寿荘では毎月イベントが開催されていて、特に注目されているのが大学生の公演です。
公演は、クラシックやバンド演奏、吹奏楽、チア、フラ、津軽三味線、混声合唱団、ミュージカル、お笑いライブなど多種多様なラインナップ。「さまざまなジャンルになるように意識して調整をしています。『夢の国』のように飽きさせない、わくわくした気持ちになれるように」と伊藤さん。
筆者は、6月に行われた「慶応義塾大学津軽三味線集団“弦音巴(おとは)”」、7月の「明治学院大学体育会“Hula Arts Lokahi”」の公演を拝見してきました!津軽三味線の澄み渡った音色が、直接耳から脳に響くような感覚を味わえる、臨場感あふれる演奏。フラのしなやかに伸びる手の動きには、力強いダイナミックさがあり、温かくにこやかな表情からは、豊かな愛があふれているように感じられました。どちらの団体も本格的で見ごたえが充分にあり、曲中に客席が思わず拍手を贈る場面がありました。

「慶応義塾大学津軽三味線集団弦音巴(おとは)」。40分にわたり、民謡から「吉田兄弟」のモダンな曲まで幅広い演奏を聴かせてくれました。特に即興演奏する場面では、3人の阿吽の呼吸で音が紡がれていき、鳥肌が立つほど感動しました。お馴染みの「東京音頭」の演奏が行われた時には、客席から手拍子と歌声が響きわたりました

「明治学院大学体育会Hula Arts Lokahi」。学生たちの踊りは、黒い衣装によって体の動きがはっきりとし、よりその美しさがダイレクトに観客に伝わっていました。膝に置いた手でリズムをとる方や、踊っている学生の手の動きを写し取るように自分の手を動かす方も。思い思いに楽しんでいました
大学生の公演は、相鉄いずみ野駅前イベント「旅するマルシェ」でフェリス女学院大学と白寿荘のブースが隣になったことがきっかけでした。「白寿荘にある集会室を生かしたい」と日ごろ考えていた伊藤さんは、白寿荘のステージを使ってほしいと、担当の先生にその場で提案。その後、コロナが流行し、連絡が途絶えていたものの、再び先生に連絡。大学のボランティアセンターにつなげてもらったことで音楽部音楽芸術学科の2年生5人による公演が実現しました。この学生からアドバイスを受け、 近隣の大学のサークルにInstagramで直接オファーをするようになり、少しずつ公演を増やしてきました。
「学生からすると、いきなり出演オファーのメッセージが来て怪しかったと思うんですけど、目に留まって真剣に公演を考えてくれる学生がいるかもしれないと、いろいろなサークルに連絡をしました。公演の実績をつくると、徐々に次の公演に結び付くようになりました」。断られることを恐れない、圧倒的な行動力が生んだアプローチです。
子育て、防災、地域の老人福祉の拠点としても活躍する白寿荘
伊藤さんの活動は、大学生の公演だけにとどまりません。「できることは何でもやる」という姿勢で、その領域は多岐にわたっています。地道な活動は白寿荘を、地域の方々にとって身近で温かい場所にしています。
●次世代を担う子どもたちのために
和泉保育園との交流、一般社団法人「かけはし」と連携した夏の花火大会や冬のみかん狩り、いずみ野中学校のボランティア活動の受け入れなどを実施。和泉北部地区子育て支援ネットワーク連絡会の一員として「芝生で遊ぼう」を企画するなど、子どもたちにさまざまな機会をつくっています。
●地域の安全と防災の拠点として
いずみ野中学校の地域防災拠点運営委員会にも参加。実践的な避難所訓練を行って、有事の際の拠点としての役割も担っています。
●高齢者が安心して暮らせるまちづくり
地域ケアプラザと連携し、車いすの操作や適切な声掛けを学ぶ「おでかけサポーター研修」を開催しています。地域の高齢者が住み慣れたまちで安心して暮らせる社会づくりに貢献しています。
伊藤さんは努力家で心に熱い思いを秘めた人
母親が特別養護老人ホームに勤めていたことをきっかけに、伊藤さんは自身も都内の大学で社会福祉学科を選択。在学中は、母親が勤める養護老人ホームでスタッフからクラシックギターを習ったり、入所者と卓球をしたりと、施設が伊藤さんの居場所の一つになっていました。また、さまざまな国に渡航し、中でも農業支援をしたバングラデシュでは毎日を生きることに必死な人々から大きな刺激を受けました。「自分にできることは何か」と考え、持ち前の行動力で、横浜市社会福祉協議会のボランティアセンターに赴き、そこで紹介されたのが白寿荘です。
スタッフになってからはデイサービス、特別養護老人ホーム、救護施設など、社内で7~8年毎に異動があり、その都度伊藤さんは新しい業務を学んできました。「赴任当初は自分自身も現場も混乱しますが、どの業務も勉強しながら現場で身につけてきました」
伊藤さんは、救護施設横浜市浦舟園の開所立ち上げに携わっていました。救護施設は、生活保護法に基づき、さまざまな障碍のために地域で生活をするのが難しい方が入所する施設です。「入所者は若い方が多いですが、現在勤める養護老人ホームに入所する方の背景と似ているところがあります。浦舟園立ち上げの経験が、養護老人ホームの運営の土台になったと思います」と伊藤さんは振り返ります。
大学生の公演や地域活動は、決して必須の業務ではありません。なぜそこまで地域に根差した活動をできるのかを尋ねると伊藤さんがこう答えてくれました。
「白寿荘は養護と特養が同じ建物内にあり、事務所も一緒なんです。一般的には日常業務の忙しさから、こうしたイベントや地域活動に力を入れるのは難しいかもしれません。ですが、私たちは二つの事業所が手を取り合うことで実現できています。何より、一緒に働く仲間の存在が大きいですね。それに……きれいごとを言うようで恥ずかしいですが、白寿荘だけでなく、地域全体が笑顔になれればと願っているんです」。謙虚に仲間の存在を称え、純粋な願いを口にする姿がとても印象的でした。
活動が広がり関わる方々や地域が豊かに
いずみ野小学校で開催される「いずみ野夏祭り」に白寿荘は毎年出店しています。そのお祭りで伊藤さんは、和泉保育園の保護者だった方から「子どもが白寿荘さんの芝生で遊ばせてもらっていたんですよ」と声をかけられたことがありました。「やっぱりそんな時は嬉しくなります」と目を細める伊藤さん。
白寿荘でのパフォーマンスをきっかけに、地域のさまざまな場でも学生たちがステージを見せてくれるようになりました。「学生の方々のステージは、来場したお客さんを楽しませるひとときになって、感謝しています。学生の方々の熱気で、それを見る入居者もエネルギッシュになるんですよ」と嬉しそうです。
最後に区制40周年を記念して、伊藤さんにメッセージをお願いしました。「区制40周年、誠におめでとうございます。正直に言うと、大層な言葉を並べるのは得意ではありません。ただ、朝の愛犬の散歩で出会う方々や、白寿荘に関わる地域の方達と顔を合わすと、『この街で生きてこられてよかった』という思いが込み上げます。これからも共に歩んでいきましょう!」伊藤さんらしい、謙虚で誠実な言葉です。
地域を楽しませる立役者として、伊藤さんが蒔いてきた種は、今や大きな花を咲かせています。保育園の思い出を語る親御さんから、笑顔になるご高齢の方、そして輝く大学生まで。伊藤さんの情熱が起点となり、泉区に新しいつながりと温かい笑顔の循環が生まれています。
写真・文=松本 裕美枝(泉区ローカルライター)
白寿荘
横浜市泉区和泉町6181-2
白寿荘みんなのブログ
https://kyosaikai.jp/hakuju-so/category/staff-blog/
※このコーナーの記事は、泉区が大好きな「泉区ローカルライター」が、区民の目線で取材し、執筆しています。
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