とんかつきりのや
庶民的でありながら、ちょっと特別感のある「とんかつ」。勝負事の前のゲン担ぎや、特別な日のお祝いに食べたくなる国民的料理です。そんな、とんかつの名店が、横浜市泉区にあます。
ご家族で経営する「桐の家」は、まるで親戚のおじさんの家を訪れたかのような雰囲気。小さい頃から通っていたお子さんが大きくなって「嫁さん紹介します」と連れてきたり、常連さんがお孫さんを連れてきたり。
そのお店で出される地産地消の「トマト」も、昔ながらの温かいお付き合いがきっかけでメニューに取り入れられました。
お店が佇むまさにこの場所で生まれ育ったという、店主の安田重留(やすだしげる)さんに話を伺いました。
横浜市営地下鉄ブルーライン「立場駅」と、相鉄いずみ野線「いずみ中央駅」のちょうど真ん中あたり。泉区を横断する長後街道沿いに、桐の家は佇んでいます。
新潟の古民家を移築して組みなおしたという店構え。お城のような建築様式が特徴的。
安田さんが生まれたのは、まだ戦後間もない頃。現在のお店がある一帯は台谷戸(だいやと)と呼ばれ、13軒の農家が集まって暮らしていました。当時は各世帯が役割分担を持ち、助け合いながら生活していたと言います。
互いを呼び分けるために使われたのは、苗字ではなく屋号。油を配る家は「油屋」、園芸用の種子を配る家は「種屋」と、家の役割で呼び合っていました。下駄の材料となる桐の栽培をしていた安田さんご一家は「桐畑」という屋号で呼ばれたそうです。
今はもう桐の栽培も農業も行っていませんが「桐の家」というお店の看板で、家業の想いを受け継いでいます。
和泉商店会の会長も務める店主の安田重留さん。
安田さんが「桐の家」を創業したのは、今から40年ほど前。30歳のときでした。それまで江の島の洋食レストランで修業を積んでいた安田さんは、30歳を目前に控えて独立を決意。親方のシェフが辻堂でとんかつ屋を始めたことがきっかけで、同じとんかつ屋を始めました。「とんかつは四季を通して比較的安定しているのがいいんだよ、と勧められて。あの頃は資金もなかったし、その日から生活をしていかないといけなかったので、じゃあ私もとんかつ屋にしようと無謀にも始めたんですよ」
お店のところどころに見かけるトンボのモチーフ。「前進あるのみ」と、戦国武将が勝利を祈願したという言い伝えにちなんで。
生活のために選んだとんかつ屋でしたが、安田さんはその奥深さにどんどん魅了されたと言います。「生活半分、おもしろさ半分。私はとんかつ屋に勤めたことがないから、我流と言えば我流です。洋食で習ったことをアレンジしながら、自分なりに考えて作ってきました」
そんな安田さんの作るとんかつは評判を呼び、今では県外からもお客さんが訪れるほどに。その味の秘訣は、どんなところにあるのでしょうか。
桐の家の人気メニューは、分厚いヒレ肉と大ぶりのエビフライが乗ったエビミックス定食。
ほんのり桜色の切り口が絶妙な「エビミックス定食」(2,145円)。お通しは塩辛、煮物、漬物の3種類。
「いただきます!」と両手を合わせ、気合を入れて食べたくなる一品です。分厚いヒレ肉は、きめ細かくジューシーで柔らかい。口の中でサクッと簡単にかみ切ることができます。
日々、最高のものを提供し続ける秘訣は、意外にも熟練の技ではなく、仕組み化だと安田さんは話します。「質のいい肉を仕入れ、切るときの厚みを安定させれば、時間で調理工程を管理することができます。お客様をなるべくお待たせしないよう、サブの人間が揚げても確実においしいものができるような仕組みにしています」
安田さんの経験と技術から導き出した、最高の肉の厚みと揚げ時間。それを正確に管理することで、いつ来ても変わらない味を楽しむことができるのです。
区役所とコラボした夏だけの特別メニュー「いっずんカレー」(1,263円)。ランチ限定1日10食(2021年8月まで)
豚肉の質を決めるのは水分量。「豚は発汗作用がないため、水を飲んで体温を下げます。豚が欲しがるままに水をあげてしまうと、その豚は水っぽくなって味が落ちるんですよ。豚の育つ環境を究極に維持して水分を調整する。そうしたことにきちんと対応されている生産者さんから仕入れています。良い生産者さんと長くお付き合いを続けて、より品質の良いものを作っていただく。それが味の基本ですね」
そんな桐の家が取り入れる地産地消食材はトマト。泉区上飯田町にある農家の小間(こま)園芸さんから仕入れています。
ズッシリ重みのある、みずみずしい小間園芸さんのトマトを使った「とまとサラダ」(770円)。
小間園芸さんとの出会いは、安田さんが中学生の頃に遡ります。「小間さんは中学時代の後輩なんですよ。お二人の息子さんがいるのですが、お兄さんが高校生のときに、うちで預かってくれと頼まれましてね。大学を卒業するまでの5年間、アルバイトとして働いてくれました。お兄さんが辞めるタイミングで、今度は代わりに弟さんを連れてきてくれて。弟さんも5年いたので、兄弟合わせて10年うちにいたことになります」
今ではお兄さんが小間園芸を継がれ、ご両親と共に質の高い野菜作りに励まれています。
「小間さんのように横浜市で農家を専業としてやっていくのは、かなりの覚悟が必要です。農家の皆さんは味に絶対の自信を持って、すごく努力してやっています。だから小間さんのトマトは、お客さんからも評判がいいですよ」
これまで地域の方々に助けられながら商売をやってきたと、安田さんは話します。「何かあったら助け合える。そういう関係性をこれからも大切にしていきたいですね」
落ち着きのある店内。田舎に帰ってきたような気分を味わえます。
家族連れに人気のお座敷。ご自慢の庭を眺めながら穏やかな時間を楽しめます。他にカウンター席とテーブル席も。
【とんかつ 桐の家】 住所:泉区和泉中央南3-7-1 アクセス:横浜市営地下鉄ブルーライン立場駅から徒歩7分、相鉄いずみ野線いずみ中央駅から徒歩10分 営業時間:11:30~14:15(ラストオーダー14:00) 17:30~20:30(ラストオーダー20:00) 定休日:火曜、月1回連休制 電話番号:045-803-9880 HP:なし
何かあったら助け合える。とんかつの名店「桐の家」が受け継ぐ、地域との絆
庶民的でありながら、ちょっと特別感のある「とんかつ」。勝負事の前のゲン担ぎや、特別な日のお祝いに食べたくなる国民的料理です。そんな、とんかつの名店が、横浜市泉区にあます。
ご家族で経営する「桐の家」は、まるで親戚のおじさんの家を訪れたかのような雰囲気。小さい頃から通っていたお子さんが大きくなって「嫁さん紹介します」と連れてきたり、常連さんがお孫さんを連れてきたり。
そのお店で出される地産地消の「トマト」も、昔ながらの温かいお付き合いがきっかけでメニューに取り入れられました。
お店が佇むまさにこの場所で生まれ育ったという、店主の安田重留(やすだしげる)さんに話を伺いました。
洋食のコックからとんかつ屋に転身。「桐の家」の誕生
横浜市営地下鉄ブルーライン「立場駅」と、相鉄いずみ野線「いずみ中央駅」のちょうど真ん中あたり。泉区を横断する長後街道沿いに、桐の家は佇んでいます。
新潟の古民家を移築して組みなおしたという店構え。お城のような建築様式が特徴的。
安田さんが生まれたのは、まだ戦後間もない頃。現在のお店がある一帯は台谷戸(だいやと)と呼ばれ、13軒の農家が集まって暮らしていました。当時は各世帯が役割分担を持ち、助け合いながら生活していたと言います。
互いを呼び分けるために使われたのは、苗字ではなく屋号。油を配る家は「油屋」、園芸用の種子を配る家は「種屋」と、家の役割で呼び合っていました。下駄の材料となる桐の栽培をしていた安田さんご一家は「桐畑」という屋号で呼ばれたそうです。
今はもう桐の栽培も農業も行っていませんが「桐の家」というお店の看板で、家業の想いを受け継いでいます。
和泉商店会の会長も務める店主の安田重留さん。
安田さんが「桐の家」を創業したのは、今から40年ほど前。30歳のときでした。それまで江の島の洋食レストランで修業を積んでいた安田さんは、30歳を目前に控えて独立を決意。親方のシェフが辻堂でとんかつ屋を始めたことがきっかけで、同じとんかつ屋を始めました。「とんかつは四季を通して比較的安定しているのがいいんだよ、と勧められて。あの頃は資金もなかったし、その日から生活をしていかないといけなかったので、じゃあ私もとんかつ屋にしようと無謀にも始めたんですよ」
お店のところどころに見かけるトンボのモチーフ。「前進あるのみ」と、戦国武将が勝利を祈願したという言い伝えにちなんで。
生活のために選んだとんかつ屋でしたが、安田さんはその奥深さにどんどん魅了されたと言います。「生活半分、おもしろさ半分。私はとんかつ屋に勤めたことがないから、我流と言えば我流です。洋食で習ったことをアレンジしながら、自分なりに考えて作ってきました」
そんな安田さんの作るとんかつは評判を呼び、今では県外からもお客さんが訪れるほどに。その味の秘訣は、どんなところにあるのでしょうか。
おいしいとんかつを提供するための秘訣
桐の家の人気メニューは、分厚いヒレ肉と大ぶりのエビフライが乗ったエビミックス定食。
ほんのり桜色の切り口が絶妙な「エビミックス定食」(2,145円)。お通しは塩辛、煮物、漬物の3種類。
「いただきます!」と両手を合わせ、気合を入れて食べたくなる一品です。分厚いヒレ肉は、きめ細かくジューシーで柔らかい。口の中でサクッと簡単にかみ切ることができます。
日々、最高のものを提供し続ける秘訣は、意外にも熟練の技ではなく、仕組み化だと安田さんは話します。「質のいい肉を仕入れ、切るときの厚みを安定させれば、時間で調理工程を管理することができます。お客様をなるべくお待たせしないよう、サブの人間が揚げても確実においしいものができるような仕組みにしています」
安田さんの経験と技術から導き出した、最高の肉の厚みと揚げ時間。それを正確に管理することで、いつ来ても変わらない味を楽しむことができるのです。
区役所とコラボした夏だけの特別メニュー「いっずんカレー」(1,263円)。ランチ限定1日10食(2021年8月まで)
豚肉の質を決めるのは水分量。「豚は発汗作用がないため、水を飲んで体温を下げます。豚が欲しがるままに水をあげてしまうと、その豚は水っぽくなって味が落ちるんですよ。豚の育つ環境を究極に維持して水分を調整する。そうしたことにきちんと対応されている生産者さんから仕入れています。良い生産者さんと長くお付き合いを続けて、より品質の良いものを作っていただく。それが味の基本ですね」
家族ぐるみのお付き合いがある農家さんから仕入れる、地産地消の「トマト」
そんな桐の家が取り入れる地産地消食材はトマト。泉区上飯田町にある農家の小間(こま)園芸さんから仕入れています。
ズッシリ重みのある、みずみずしい小間園芸さんのトマトを使った「とまとサラダ」(770円)。
小間園芸さんとの出会いは、安田さんが中学生の頃に遡ります。「小間さんは中学時代の後輩なんですよ。お二人の息子さんがいるのですが、お兄さんが高校生のときに、うちで預かってくれと頼まれましてね。大学を卒業するまでの5年間、アルバイトとして働いてくれました。お兄さんが辞めるタイミングで、今度は代わりに弟さんを連れてきてくれて。弟さんも5年いたので、兄弟合わせて10年うちにいたことになります」
今ではお兄さんが小間園芸を継がれ、ご両親と共に質の高い野菜作りに励まれています。
「小間さんのように横浜市で農家を専業としてやっていくのは、かなりの覚悟が必要です。農家の皆さんは味に絶対の自信を持って、すごく努力してやっています。だから小間さんのトマトは、お客さんからも評判がいいですよ」
これまで地域の方々に助けられながら商売をやってきたと、安田さんは話します。「何かあったら助け合える。そういう関係性をこれからも大切にしていきたいですね」
落ち着きのある店内。田舎に帰ってきたような気分を味わえます。
家族連れに人気のお座敷。ご自慢の庭を眺めながら穏やかな時間を楽しめます。他にカウンター席とテーブル席も。
【とんかつ 桐の家】
住所:泉区和泉中央南3-7-1
アクセス:横浜市営地下鉄ブルーライン立場駅から徒歩7分、相鉄いずみ野線いずみ中央駅から徒歩10分
営業時間:11:30~14:15(ラストオーダー14:00)
17:30~20:30(ラストオーダー20:00)
定休日:火曜、月1回連休制
電話番号:045-803-9880
HP:なし