こむぎばたけのいしがまべーかりー&しょくどう ふぁーるにえんて
横浜市営地下鉄「下飯田駅」から徒歩2分ほど、環状4号線沿いに大きな三角屋根が特徴的な建物が見えてきます。
「小麦畑の石窯ベーカリー&食堂 ファール ニエンテ」は、畑が併設されたベーカリー兼イタリアンレストラン。「ファール ニエンテ」という店名にはイタリア語で「何もしない」という意味があり、「ただそこにいるだけで満ち足りる甘美な時間を過ごしてほしい」という願いが込められています。
お店の味の決め手となっているのは、自家製の小麦。栽培から製粉、調理など、ほとんどの行程に携わっているのは知的障害のある方々です。
福祉作業所であるとともに、口コミで評判のお店を切り盛りする所長の鈴木康介(すずきこうすけ)さんにお話を伺いました。
ファール ニエンテを運営するのは、泉区中田西を本拠地とする社会福祉法人「開く会」。同法人では、ファール ニエンテの他にもさまざまな事業所を運営しており、働くことを通して障害者の方々が豊かな人生を送れるよう支援しています。
吹き抜けのある広々とした平屋建てのファール ニエンテの外観。
「『開く会』では、開所当時からパン作り、陶器作り、花苗作りを行ってきました。障害のある方々が作ったものだから買っていただくのではなく、商品そのものに価値を感じていただけるよう品質を重視したものづくりに挑戦しています。障害者の方々が作ったということをあえて言わなくても、商品の質で勝負ができるのではないかという考え方に、長年かけて至ることができました」
そうした考え方の変化を生み出したのは、ファール ニエンテの味の決め手にもなっている小麦作りだといいます。
「小麦作りは、当法人のパン窯を製作していただいた櫛澤(くしざわ)電機製作所さんからのご提案で始めました。櫛澤電機さんはベーカリーの開業相談も行っており、パン作りだけでなく、原料である小麦の栽培から手がけることで、障害者の方々の就労機会を創出することができれば、より社会的意義のある取組になるのではないかということで当法人にお声がけいただいたのです」
小麦作りにあたっては、櫛澤電機さんに紹介された山梨県の農家のもとで、鈴木さんが2年間かけて生産方法を習得。その後、横浜市内事業所での生産体制を確立し、現在は「開く会」が持つ泉区内の約6000平米の畑のうち約4000平米で小麦作りが行われています。
お話をお伺いした所長の鈴木康介さん。大学で生化学を学び、農業や生物系の仕事に携わりたいと「開く会」に入職。
生産された小麦は「開く会」の中で使用されるだけでなく、「ぼくらの小麦」というブランド名で横浜市内や東京都内のパン屋さんにも納品されているそうです。
「小麦作りを始めたことで、当法人のパン・菓子作りのレベルがワンランク上がりました。より味に自信を持てるようになったことで、一般の店舗に近い形で福祉事業所を運営しようと、2014年11月にファール ニエンテを創業したのです」
創業から約7年。ファール ニエンテのピザは口コミで評判となっています。その味は、有名なグルメサイトが公表している横浜の人気ピザランキングで、約100店舗中トップ20にランクインしたことがあるほど。
ファール ニエンテを訪れるお客さんが口々に言うのは「生地がおいしい」ということ。例えば、定番商品の「きまぐれオルトラーナピッツァ」は、ファール ニエンテの畑で採れた野菜が乗ったピザですが、生地がもちっとしていて香ばしく、大きな野菜がたくさんトッピングされているため満足感が得られます。
併設された畑で採れる野菜を必ず1種類は乗せて作る「きまぐれオルトラーナピッツァ」(1,550円・税込)。
ファール ニエンテの生地がこんなにも美味しいと評判になるのは、自家製の小麦を石臼製粉しているから。「一般的に流通している小麦粉は、小麦の皮の中にある胚乳(はいにゅう)の部分だけを製粉しています。一方、石臼製粉だとどうしても外皮が入ってしまうのですが、実は外皮と胚乳の間に一番おいしい部分があり、それが香りや旨味につながっています」
ただし、石臼製粉の小麦粉は一般的な小麦粉よりも膨らみにくいため、プロのパン屋さんでも石臼製粉の小麦粉を100%使ってパンを作ることは難しいといいます。「当店のパンとピザ生地にはその石臼製粉でできた『ぼくらの小麦』が1~4割ブレンドされており、これこそが生地が美味しいと評価していただける一番の秘訣です」
じゃがいもパン(160円・税込)奥:野菜ブリオッシュ(150円・税込)。野菜ブリオッシュには必ずファール ニエンテ産の野菜を使用。
ファール ニエンテは、複数ある「開く会」の事業所の中でも「実社会の一員として働く」ということに特化した事業所だと鈴木さんは話します。一般的な飲食店と同様のフィールドで勝負をするということは、仕事のやりがいも厳しさもそうした店舗と変わりません。
オープン当時から約7年間ピザ焼きを担当している高橋さんは、毎日約100枚ものピザを焼いています。400~430度にもなるという石窯でピザをおいしく焼き上げる作業は、まさに職人技。ピザソースをはじめ、ほとんどのソース類の仕込みも高橋さんがほぼ1人で担当しています。
ファール ニエンテのピザの味を握っているといっても過言ではない高橋さん。
パン工房の起点となっているのは、水谷さんです。水谷さんが作る生地の味はほとんどブレがなく、鈴木さんも全幅の信頼を寄せています。
粉を正確に計量し、パン生地を作る水谷さん。
「ファール ニエンテは、『開く会』の中でも一番来店者数が多く、仕事量も多い事業所です。気分がすぐれないときはできなくても仕方ないよねと言ってあげたい気持ちもありますが、その人の障害や性格を理解した上でここまではがんばろうとしっかりラインを引くようにしています」
ファール ニエンテで働いてみたいという見学者の方も多いそうですが、憧れや、やってみたいという気持ちだけではなかなか務まらない職場だと言います。「ファールニエンテでは障害のあるなしにかかわらず、働き始めると、たくさんの仕事を求められます、人によっては仕事が嫌になってしまうこともあります。そうならないよう事前に仕事の忙しさをきちんと伝え、ミスマッチを防ぐようにしています」
「開く会」では特徴のある事業所を複数運営しているため、その人がどれくらい仕事をしたいかの希望に合わせて、その人に合った働き方を選ぶことが可能です。
自分のペースで働きやすいという農作業の風景。野菜と語り合うかのように1つ1つ丁寧に作業をされています。
さまざまな個性を持った人が適材適所で能力を発揮し合いながら、実社会で求められるスピードに合わせて価値を提供しているファール ニエンテ。その空間には、障害の有無に関わらず、生き生きと働く人々の姿と、美味しい食事と共に楽しいひと時を過ごすお客さんの笑顔がありました。
併設された畑で採れたベーカリー内の野菜直売所。毎日約100パッケージの野菜を販売。
【小麦畑の石窯ベーカリー&食堂Far niente(ファールニエンテ)】 住所:泉区和泉町1011−1 アクセス:横浜市営地下鉄ブルーライン下飯田駅から徒歩2分、相鉄いずみ野線ゆめが丘駅から徒歩7分 営業時間:10:00~18:00 11:00~ラストオーダー17:00 定休日:毎週木曜日 ※営業時間・定休日は変更する場合があります。あらかじめご了承ください。 電話番号:045-392-3225 HP:http://www.hirakukaicp.or.jp/farniente/ Instagram: https://www.instagram.com/farniente.at.komugibatake/
障害の有無に関わらず、多様な働き方の選択肢を。口コミで評判のベーカリー&食堂「ファール ニエンテ」の挑戦
横浜市営地下鉄「下飯田駅」から徒歩2分ほど、環状4号線沿いに大きな三角屋根が特徴的な建物が見えてきます。
「小麦畑の石窯ベーカリー&食堂 ファール ニエンテ」は、畑が併設されたベーカリー兼イタリアンレストラン。「ファール ニエンテ」という店名にはイタリア語で「何もしない」という意味があり、「ただそこにいるだけで満ち足りる甘美な時間を過ごしてほしい」という願いが込められています。
お店の味の決め手となっているのは、自家製の小麦。栽培から製粉、調理など、ほとんどの行程に携わっているのは知的障害のある方々です。
福祉作業所であるとともに、口コミで評判のお店を切り盛りする所長の鈴木康介(すずきこうすけ)さんにお話を伺いました。
小麦作りから生まれた、新たな福祉作業所の形
ファール ニエンテを運営するのは、泉区中田西を本拠地とする社会福祉法人「開く会」。同法人では、ファール ニエンテの他にもさまざまな事業所を運営しており、働くことを通して障害者の方々が豊かな人生を送れるよう支援しています。
吹き抜けのある広々とした平屋建てのファール ニエンテの外観。
「『開く会』では、開所当時からパン作り、陶器作り、花苗作りを行ってきました。障害のある方々が作ったものだから買っていただくのではなく、商品そのものに価値を感じていただけるよう品質を重視したものづくりに挑戦しています。障害者の方々が作ったということをあえて言わなくても、商品の質で勝負ができるのではないかという考え方に、長年かけて至ることができました」
そうした考え方の変化を生み出したのは、ファール ニエンテの味の決め手にもなっている小麦作りだといいます。
「小麦作りは、当法人のパン窯を製作していただいた櫛澤(くしざわ)電機製作所さんからのご提案で始めました。櫛澤電機さんはベーカリーの開業相談も行っており、パン作りだけでなく、原料である小麦の栽培から手がけることで、障害者の方々の就労機会を創出することができれば、より社会的意義のある取組になるのではないかということで当法人にお声がけいただいたのです」
小麦作りにあたっては、櫛澤電機さんに紹介された山梨県の農家のもとで、鈴木さんが2年間かけて生産方法を習得。その後、横浜市内事業所での生産体制を確立し、現在は「開く会」が持つ泉区内の約6000平米の畑のうち約4000平米で小麦作りが行われています。
お話をお伺いした所長の鈴木康介さん。大学で生化学を学び、農業や生物系の仕事に携わりたいと「開く会」に入職。
生産された小麦は「開く会」の中で使用されるだけでなく、「ぼくらの小麦」というブランド名で横浜市内や東京都内のパン屋さんにも納品されているそうです。
「小麦作りを始めたことで、当法人のパン・菓子作りのレベルがワンランク上がりました。より味に自信を持てるようになったことで、一般の店舗に近い形で福祉事業所を運営しようと、2014年11月にファール ニエンテを創業したのです」
ファール ニエンテのピザが「生地がおいしい!」と評価される理由
創業から約7年。ファール ニエンテのピザは口コミで評判となっています。その味は、有名なグルメサイトが公表している横浜の人気ピザランキングで、約100店舗中トップ20にランクインしたことがあるほど。
ファール ニエンテを訪れるお客さんが口々に言うのは「生地がおいしい」ということ。例えば、定番商品の「きまぐれオルトラーナピッツァ」は、ファール ニエンテの畑で採れた野菜が乗ったピザですが、生地がもちっとしていて香ばしく、大きな野菜がたくさんトッピングされているため満足感が得られます。
併設された畑で採れる野菜を必ず1種類は乗せて作る「きまぐれオルトラーナピッツァ」(1,550円・税込)。
ファール ニエンテの生地がこんなにも美味しいと評判になるのは、自家製の小麦を石臼製粉しているから。「一般的に流通している小麦粉は、小麦の皮の中にある胚乳(はいにゅう)の部分だけを製粉しています。一方、石臼製粉だとどうしても外皮が入ってしまうのですが、実は外皮と胚乳の間に一番おいしい部分があり、それが香りや旨味につながっています」
ただし、石臼製粉の小麦粉は一般的な小麦粉よりも膨らみにくいため、プロのパン屋さんでも石臼製粉の小麦粉を100%使ってパンを作ることは難しいといいます。「当店のパンとピザ生地にはその石臼製粉でできた『ぼくらの小麦』が1~4割ブレンドされており、これこそが生地が美味しいと評価していただける一番の秘訣です」
じゃがいもパン(160円・税込)奥:野菜ブリオッシュ(150円・税込)。野菜ブリオッシュには必ずファール ニエンテ産の野菜を使用。
実社会の一員として働くことで、豊かに生きる
ファール ニエンテは、複数ある「開く会」の事業所の中でも「実社会の一員として働く」ということに特化した事業所だと鈴木さんは話します。一般的な飲食店と同様のフィールドで勝負をするということは、仕事のやりがいも厳しさもそうした店舗と変わりません。
オープン当時から約7年間ピザ焼きを担当している高橋さんは、毎日約100枚ものピザを焼いています。400~430度にもなるという石窯でピザをおいしく焼き上げる作業は、まさに職人技。ピザソースをはじめ、ほとんどのソース類の仕込みも高橋さんがほぼ1人で担当しています。
ファール ニエンテのピザの味を握っているといっても過言ではない高橋さん。
パン工房の起点となっているのは、水谷さんです。水谷さんが作る生地の味はほとんどブレがなく、鈴木さんも全幅の信頼を寄せています。
粉を正確に計量し、パン生地を作る水谷さん。
「ファール ニエンテは、『開く会』の中でも一番来店者数が多く、仕事量も多い事業所です。気分がすぐれないときはできなくても仕方ないよねと言ってあげたい気持ちもありますが、その人の障害や性格を理解した上でここまではがんばろうとしっかりラインを引くようにしています」
ファール ニエンテで働いてみたいという見学者の方も多いそうですが、憧れや、やってみたいという気持ちだけではなかなか務まらない職場だと言います。「ファールニエンテでは障害のあるなしにかかわらず、働き始めると、たくさんの仕事を求められます、人によっては仕事が嫌になってしまうこともあります。そうならないよう事前に仕事の忙しさをきちんと伝え、ミスマッチを防ぐようにしています」
「開く会」では特徴のある事業所を複数運営しているため、その人がどれくらい仕事をしたいかの希望に合わせて、その人に合った働き方を選ぶことが可能です。
自分のペースで働きやすいという農作業の風景。野菜と語り合うかのように1つ1つ丁寧に作業をされています。
さまざまな個性を持った人が適材適所で能力を発揮し合いながら、実社会で求められるスピードに合わせて価値を提供しているファール ニエンテ。その空間には、障害の有無に関わらず、生き生きと働く人々の姿と、美味しい食事と共に楽しいひと時を過ごすお客さんの笑顔がありました。
併設された畑で採れたベーカリー内の野菜直売所。毎日約100パッケージの野菜を販売。
【小麦畑の石窯ベーカリー&食堂Far niente(ファールニエンテ)】
住所:泉区和泉町1011−1
アクセス:横浜市営地下鉄ブルーライン下飯田駅から徒歩2分、相鉄いずみ野線ゆめが丘駅から徒歩7分
営業時間:10:00~18:00
11:00~ラストオーダー17:00
定休日:毎週木曜日
※営業時間・定休日は変更する場合があります。あらかじめご了承ください。
電話番号:045-392-3225
HP:http://www.hirakukaicp.or.jp/farniente/
Instagram: https://www.instagram.com/farniente.at.komugibatake/