ロゴ画像:いずみ くらし

歴史ある土地で夫妻が丁寧に作る「いずみマロン」

昨年、ハマッ子直売所みなみ店で出会った「いずみマロン」。泉区の直売所に通うようになって3年、私はそれまで地名が付いている横浜産の果物を見たことはありませんでした。どんな方がどんな想いで生産されているのでしょうか。今年ももうすぐ出荷という時期にいずみ野駅から徒歩15分ほどの県立松陽高校のそばにある栗林を訪ね、いずみマロンの生産者である横山彬さんと妻の知子さんにお話を伺いました。

 

(右から)横山彬さんと知子さん。日当たりの良い農地で樹の特徴や栗のなり方を見せていただきました

 

 

直売所での差別化をはかるネーミング

 

横山さん夫妻が扱っている栗は、栗の王様「利平(りへい)」、加工しやすくお彼岸に出回る「国見(くにみ)」、大きめで光沢のある「筑波(つくば)」、江戸時代に一般に広がった「銀寄(ぎんよせ)」、たくさん実がなる「石鎚(いしづち)」、新品種の鬼皮(栗の表面の皮)が剝きやすい「ポロタン」など。4~5メートル間隔で、20年位を目安に3~4種類の品種の苗木を、まるで三角形を描くように植え替えています。9月の中旬から10月の上旬まで、お彼岸をはさんで、ハマッ子直売所みなみ店とその裏手にあるメルカートみなみの荷受け場に出荷されます。

 

この時期は全国的に栗の最盛期なので、百貨店、量販店、インターネットの産直販売など、いたるところで栗が販売されていて、競争力が必要な時期でもあります。「いずみマロン」は、実は「利平」以外の横山さんご夫婦が作る栗の混合品で、手に取ってもらえるような印象的な名前にすることで鮮度の落ちやすい栗を完売しようと横山さんが名付けたものでした。どの栗も自然に落ちたものを拾い集め、水分が抜ける前にサイズ分けして袋詰めします。サイズ分けに使用するスケールは、大粒ぞろいの栗を測るために、Lサイズ(25グラム~30グラム用)、LLサイズ(30グラム~35グラム用)まで手作りでそろえています。年に何個かはLLLサイズ40グラムもあるものも取れるそうです。

 

ラベル用ハンコと栗の大きさを計るスケール

 

横山さんの生産物の名前をラベルに押すハンコの入れ物には、栗と同時期に出荷できる枝豆「小糸在来」、夏のまくわうりの「金太郎」、日本かぼちゃ「鹿ケ谷(ししがたに)」など、ほかにも想像するだけでも楽しくなるような品種の名前がたくさん。こんな可愛い名前が付いていると、スーパーなどの売り場のポップやラベルを見てお気に入りの農家さんの農産物を探すのも楽しいし、苦手な野菜があっても興味が湧きますよね。

 

 

農家直伝!おいしい栗の食べ方

 

「大粒で完熟の栗は甘く、香りが良いです。茹でて半割りにする(半分に割る)のが一番簡単にそれを味わえます」と知子さん。彬さんにも「もっと味を深く楽しみたければ、バーベキューセットで栗をアルミホイルに包んで20分くらい焼いたら、外国の街角で売られているような焼き栗もできるかも」と食べ方を教えていただきました。じっくり焼き芋のように焼いた栗はもっと甘さを感じられるし、爆ぜた所に焼き色がつくとさらにホクホク感が増して特別な一品になるそうです。

 

植え替えて3年目の栗・筑波。まん丸のイガが5個も有りました。右端が栗の花

 

「おもてなし用に、栗きんとんを作ってみたいのですがどうやったらおいしくできますか」とお聞きしたところ、知子さんは「鬼皮付きのまま冷凍して保存した後、冷凍のまま水から30分~40分茹でて半割りにします。それをスプーンですくってつぶして、砂糖で味を整えて茶巾絞りにするのがおいしいのよ」と教えてくれました。私は栗きんとんといえばお正月のおせち料理に入っている芋きんとんの栗入りを思い浮かべていたので「栗だけのきんとんとは、なんて贅沢なんだろう。今年は絶対作ろう」と、とても楽しみになりました。

 

ちなみに渋皮煮はポリフェノールも逃さず食べられて魅力的ですが、ホクホクした利平栗は不向きだとか。でも新鮮な栗も少し日を置いて乾燥させることで、鬼皮と種の間に隙間ができ、皮が剥きやすくなり渋皮煮を作りやすくなるのではないかということです。いずみマロンは渋皮煮、利平栗は栗ご飯・栗きんとんと使い分けてもよいですね。

 

少し小ぶりな利平栗。利平栗の鬼皮は産毛があって見分けやすいのも特徴の一つ

 

 

小規模でも特徴ある季節の野菜をおいしく

 

彬さんは勤めていた会社を定年退職した後、お父さんから6,000坪の農地を相続して「安定した収益が見込まれる農産物を作りたい」と考えて栗作りを始めました。横浜市内の果樹の生産量を見ると、栗は市内第4位の90トン(※)。いずみマロンは幅広い年代にファンが多く、贈り物として喜ばれるといいます。「将来、栗拾い体験もできたらいいかな。広い通りに面している門扉もあるからお客さんが栗林に出入りしやすいし」と、彬さんは栗の木の向こうに見える白い門扉を指差し笑顔で眺めながら話していました。

 

11月になると、横山さんご夫妻が出荷する農産物は、キウイフルーツ、里芋と続きます。冬野菜は出荷していませんが、煮物に向いている三浦大根やとてもやわらかい聖護院大根を栽培して、知り合いや親戚の方にお届けしているそうです。春になると、4月上旬の朝堀りの筍からハマッ子直売所みなみ店への出荷を再開します。年間に作る野菜の種類はあまり多くないと言いますが、病気に強く栽培しやすい品種の中から特徴のある季節の野菜を選んでいます。

 

「有機肥料を与えて育てた作物は、どの野菜も毎日少しずつ栄養を蓄えて元気に育つから、生育も良いし土もふかふかでやせません」と話す彬さん。出荷量より味を重視しています。

 

昨年、私が出会ったいずみマロン。小粒なものはお手頃価格でした

 

今回お話を伺って、小規模ながらも品種・販売時期に合わせた作付けを行っていることがゆとりと工夫を生み、それによって多くの方に喜ばれる農産物を作れることがご夫婦の生きがいになっていると感じました。

 

彬さんのご両親は1950年代半ばから仕事のためにしばらく藤沢に移っていましたが、その間彬さんもよくご両親と現在の栗林のある旧宅へ来て家や土地の手入れをしていました。その後ご両親は、相鉄いずみ野線いずみ野駅ができた1970年代半ばに旧宅に戻ってきて、お父さんは定年退職後、本格的にぶどうを栽培し、キウイフルーツや栗も作っていたそうです。そんなご両親の姿を見てきたので家にも土地にも愛着があり、これからも守っていきたいから農業を続けていると彬さんはいいます。

 

栗林から戻る際、敷地内の墓地にお参りさせていただきました。遠い昔、鎌倉時代に八王子の横山党が移って来て、横山さん宅がある和泉川沿いを開墾したそうで、「宝永」(1700年代初めごろ)と刻まれた童女の墓石がありました。彬さんは墓所の入口にダイダイとユズリハを植えていて、「代々譲る」という言葉をかみしめるように口にしていました。横山さんご夫妻が受け継いだものは土地だけではなく、この先も大切につなぐ魂に至るまでとても大きなものだと感じました。

 

栗がハマッ子みなみ直売所に並ぶころ、横山さんのお手製ラベルを探しに行こうと思います。

 

農作業の傍ら趣味も忘れず楽しんでいる横山さん夫妻

 

※2006年度産、ジャパンクロップス(https://japancrops.com/municipalities/kanagawa/yokohama-shi/crops)参照

 

##ライタークレジット:
写真・文=中村 公仁代(泉区ローカルライター)

 

##Information:
いずみマロンなどの購入先はJA横浜「ハマッ子」直売所みなみ店
営業時間9:00~17:00
住所  中田西2-1-1
電話  045-803-9272
https://ja-yokohama.or.jp/tenpo/hk_minami

 

※このコーナーの記事は、泉区が大好きな「泉区ローカルライター」が、区民の目線で取材し、執筆しています。

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