ロゴ画像:いずみ くらし

過去の記憶に光をあてて、高齢者が笑顔に 「宮ノ前テラスの回想法」

お年寄りと、もっと楽しくおしゃべりしたいと思ったことはありませんか?10年ほど前に他界した祖母ともっといろいろな話をしておけば良かったと、私は未だにたびたび思います。その頃の私は祖母と楽しくおしゃべりしたいと思いながら、できなかったのですが、宮ノ前テラスの回想法は世代を超えて会話を楽しむ方法を教えてくれました。

 

NPO法人宮ノマエストロ(宮ノ前テラス)代表の高橋さん(写真中央)は、この日も会話の輪 に加わり楽しい時間を皆で過ごしました

 

 

参加者の笑い声がつきない回想法のようす

 

地域住民が運営している泉区中田東の「宮ノ前テラス/地域の多世代交流スペース」では、回想法を用いたお話会が2018年10月から毎週日曜日に行われています。回想法は、昔の道具や写真にふれ思い出を語り合い、脳全体を活性化させる心理療法で、宮ノ前テラスでは専門のトレーナーが進行役を務めています。

 

宮ノ前テラスの回想法は、会話運営のリーダーと、協力して運営していく役割のコリーダー数名、参加者4〜6名で輪になって座ります。この日のテーマは、 子どもの頃のお風呂支度のお手伝い。スクリーンには、薪をくべて湯を沸かす昔ながらの五右衛門風呂の写真が映し出されていました。

 

写真は、幼い頃の記憶を思い出すきっかけになります。今回は写真を題材にしていますが、昔の道具を目の前に置いて会話を進めることもあります。蚊帳を吊って、中で回想法を開催したこともあるそうです

 

子どもの頃にどんなお風呂支度の手伝いをしてきたか、リーダーは参加者に尋ね、ひとりに5分ほど時間を使って当時の体験を聞き取っていきました。お風呂の水汲みという同じ体験であっても、出身地・年齢・兄弟構成が違えば、語られる物語は全く違ったものになります。

 

お互いの体験に聞き入り、あいづちを打ったり驚いたりと、参加者の気持ちが高まっているのが分かりました。話が一巡するころには、私は一人一人の体験を、物語のように思い描くことができるようになっていました。

 

体験を再現している参加者の身振り手振りは、後半になるにつれ自然と大きくなっていきました

 

 

「親友ができた」自信と喜びに溢れる地域コミュニティ

 

高橋さんは、かつて回想法を体験し、会場で初めて会った受講者と幼馴染のような関係になり、喜んだ経験があります。回想法は地域に役立つツールだと思い、宮ノ前テラスの活動に取り入れました。

 

実際、宮ノ前テラスでも参加者同士が     仲良くなり「この年になって親友ができた」という嬉しい報告もあります。参加者の自己肯定感ややる気が回想法によって高まっていることを、高橋さんはひとりひとりの表情から感じているそうです。

 

回想法の良さは、親しい友人ができるだけではありません。子どもの頃の記憶を思い出せたこと自体が、その人を温かい気持ちにしてくれたり、幸せにしてくれたりします。

 

「最近では、卒業式のテーマの回で『着物を着て参列したお母さんがいつもより色白できれいだった』と男性の参加者が言ってくれたことが印象的でした。80歳を過ぎている男性3名ともに、お母さんがきれいだった日のことを思い出して皆の前で話してくれたこと。回想法って素敵!と思いました」(高橋さん)

 

卒業式をテーマにした回想法のようす。昔を思い出すきっかけとして「小学校の卒業証書」を使って話が進められました(高橋さん提供)

 

宮ノ前テラスの回想法チームは、コロナ禍で集まれない時期も、オンラインで回想法コミュニティの運営を絶やすことなく続けてきました。そのかいあって、最近では参加者のお年寄り同士が子どもの頃の話を聞き合い、リーダーの役割を自然と行うこともあるそうです。

 

「最高の回想法コミュニティは、リーダーが話を進めるのではなく、参加者同士で子どもの頃の話を引き出し合っている状態なんです。宮ノ前テラスの回想法はその状態に近づきつつあります。心地いい空間になっていますよ」。高橋さんの声が思わず弾みました。

 

 

「回想法を利用して、誰もが住みよい地域をつくりたい」新しい試みがスタートしています

 

回想法は、エンジョイエイジングという宮ノ前テラス独自の事業(横浜市介護予防・生活支援サービス補助事業に認定)の一コマ。ヨガ・歌・ゲームや健康マージャンなど多彩なプログラムの中で、回想法は既に150回の開催を重ね、高橋さんを中心とした回想法のチームは手ごたえを感じています。

 

宮ノ前テラスは住み慣れた場所で誰もが暮らせるまちづくりを目標に、2021年10月より、認知症の方に特化した取り組みも始めました。「思い出カフェ」と名付けられたプログラムでは、木曜日午前中にゆっくりとした回想法を実践しています。

 

「思い出カフェ」では、高橋さんが師事した高島先生(回想法プランニング代表/ 写真中央)がリーダーを務めています

 

また、回想法のリーダーを目指す人たちの研修先としても、宮ノ前テラスは利用されるようになりました。担い手の育成に力を入れ、回想法が地域コミュニティ育成のきっかけになればと高橋さんは考えています。

 

私がプログラムを見学した時は、初めて参加する方や親に紹介しようと見学に来た方もいました。ますます賑やかになっていく宮ノ前テラス。お年寄りの笑顔がまちを元気にしています。

 

プログラムがすべて終わり、お弁当を受け取る参加者。以前はレストラン内で参加者が食事を共にしましたが、現在はお弁当の持ち帰りが基本です。安心して利用いただくために館内には大型空気清浄機も設置しました

 

宮ノ前テラスの高橋裕子さん(NPO法人宮ノマエストロ代表)。笑顔が明るくて話しやすく、私はすぐにファンになりました

 

 

ライタークレジット:
写真・文=松本 裕美枝(泉区ローカルライター)

 

Information:
NPO法人 宮ノマエストロ
https://miyanomaestro.or.jp/ ※2022年3月よりホームページがリニューアルしました!!
お問い合わせ:https://miyanomaestro.or.jp/contact/
電話:045-884-0246
住所:横浜市泉区中田東4-59-41
公式LINE QRコード↓ ぜひご登録ください。

 

※回想法は日曜日午前中のプログラム(横浜市介護予防・生活支援サービス補助事業「エンジョイエイジング」)の一コマとして開催されている他、第1第3木曜日に認知症の方向けのプログラム(思い出カフェ)もあります。
※詳しいスケジュール、予約、料金については、ホームページやSNSでご確認ください。

 

※回想法リーダーとして活動を検討中の方からのお問い合わせも、お待ちしております。

 

 

※このコーナーの記事は、泉区が大好きな「泉区ローカルライター」が、区民の目線で取材し、執筆しています。

 

 

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