ロゴ画像:いずみ くらし

泉区時間で出会った平日限定の「パン工房つくし」

新型コロナウイルス感染症の拡大や働き方改革の影響で、リモートワークが浸透してきました。地元で過ごす時間が増えた方も多いと思いますが、皆さんはどのようにお過ごしですか?私は、リモートワークでお昼休みに地元・泉区を散策する機会が多くなりました。そんな中で、平日限定で営業している生活介護事業所「パン工房つくし」に出会い、ほっこりした時間を過ごせたのでご紹介します。

 

店内の様子(提供:パン工房つくし)

 

 

下飯田駅周辺で見つけたパン屋さんとの心温まる出会い

 

うららかな春の日のリモートワーク、お昼休みの短い時間を使って自宅近くの下飯田駅周辺を散策していたところ、黄色の「天然酵母パン」の旗がはためいている「パン工房つくし」を見かけて心惹かれ、入ってみることにしました。

 

くるみレーズン食パンとメロンパンに紅茶を添えたランチタイムの一コマ

 

入口のガラス戸を開けて入ると、2畳ほどのスペースに丁寧に個包装されたパンが並んでいました。私は「大人気」のうたい文句がある「くるみレーズン食パン」を迷わず手に取りました。会計の時に店員さんが職員さんのサポートを受け、じっくり確認しながらレジ精算を行ってくれました。この時、障がいのある方が店員として働いているパン屋だということがわかりました。

 

まじめで真摯な姿の店員さんに心を打たれ、思わず「パンおいしそうですね。ありがとうございます」と声をかけました。店員さんは、私の顔をじっとみて大きな声でゆっくりと「ありがとうございます」と深々と頭を下げてくれました。こんな気持ちのいい挨拶は久しぶりで、私はほっこりした気持ちになりました。

 

帰ってからくるみレーズン食パンをちぎってみると、ぎっしり入ったくるみとレーズンが素朴なパンのアクセントになっていて、食べる手が止まりませんでした。これを境に時々通うようになったのはいうまでもありません。まさにリモートワークのおかげで出会えたパン屋さんなのです。

 

 

パン工房つくしの成り立ち

 

すっかり魅せられたパン工房つくしの成り立ちを探るため、運営者の社会福祉法人同愛会まちなと統括事業者の中村淳吾さんを訪ねました。

 

まちなと統括事業者の中村淳吾さん。笑顔で当時の苦労話をお話しいただきました

 

パン工房つくしは、障害者総合支援法に則った「生活介護事業所」に該当する施設です。生活介護事業所とは、障がいがあり介護を必要とする方に対して日常生活上の支援や創作的活動・生産活動の機会等を提供し、身体機能や生活能力の向上のために必要な援助を行う場所のこと。ここに通う障がいのある方をパン工房つくしでは「利用者さん」と呼んでいます。

 

生活介護事業としてパン作りを選んだ理由は、工程が分担でき、利用者さんは自分のできることに応じてそのどこかに関わることができるからだそう。また、「焼き上がったパンの販売を通じて地域とつながることもできます」と中村さんは語ります。

 

ただ、中村さん自身パンを作ったことがなく、まちなとでも経験がないことから、開店前にパン屋で1年間修業をしたそうです。福祉の仕事とまったく違う世界にかなり戸惑ったという中村さん。修業を無事に終えて利用者さんと練習のためにパンを焼いたときは、「カチカチのパンが出来上がって、開業できるか心配しました」。しかし、修業したパン屋のご主人の強力なサポートもあり、なんとか2006年6月の開店にこぎつけました。

 

赤いマフラーをしたトレードマークの「つくし君」

 

店名の「つくし」は、下飯田駅のこの土地を紹介してもらった当時、周囲は野原で春の到来を告げるつくしが一面に顔を出していたことから付けたそうです。店名も決まったところで、利用者さんが思い思いにマークを描くことになり、その中から赤いスカーフをした「つくし君」が生まれました。

 

開業当初は職員さんもパン作りの工程に加わっていましたが、今ではほぼ全工程を利用者さんの分業で作れるように。「最終的には、職員は傍で見守っているだけにしたいです」と中村さんは目標を話してくれました。

 

お話を伺った後に、利用者さんがパンを作っている様子を見学させていただきました。

 

メロンパンのクッキー部分を練っている作業。2人で協力して作業をしています

 

ボールを押さえる人、バターを混ぜる人、たくさんの利用者さんの手によってパンになっていく様子を間近に見ることができました。明るく声をかけている職員さんの様子もとても微笑ましく感じました。

 

 

思いやりあふれる下飯田地区へ

 

最後に中村さんに下飯田地区とパン工房つくしの今後についてお伺いしました。中村さん曰く、下飯田駅周辺には、知的障がい者、身体障がい者、そして高齢者のような配慮を必要とする方々の事業所が多いということでした。地区の開発(※)に伴って人が増えても、そうした方々への理解が増し、みんながお互いを思いやれる下飯田地区になればいいなと照れながらおっしゃっていました。

 

パン工房つくしの営業時間は、平日12時頃から16時までとなっています。黄色い旗が営業中の目印です。食品廃棄を減らしたいとの考えから焼き上げる個数も最小限に留めているとのことでした。人気のある「くるみレーズン食パン」は週2日の販売なので予約するのが確実です。

 

皆さんも、魅力あふれる下飯田のパン屋さんに足を運んで、心温まる交流の時間を過ごしてみませんか。

 

お店の正面。手作り感ある看板が目を引きます。入口は、ウッドデッキの通路の先にあります

 

※相鉄いずみ野線「ゆめが丘駅」及び横浜市営地下鉄線「下飯田駅」を中心に、環状4号線の交通ネットワークを活用した「新たな駅前拠点市街地」としての計画的な街づくりが進められています。

 

##ライタークレジット:
写真・文=小松文美(泉区ローカルライター)

 

Information:
同愛会 パン工房つくし
〒245-0016 横浜市泉区下飯田町863-3
045-308-5800
パン工房つくし君のインスタグラム
https://www.instagram.com/pan.tsukushi.kun/

 

※このコーナーの記事は、泉区が大好きな「泉区ローカルライター」が、区民の目線で取材し、執筆しています。

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