ロゴ画像:いずみ くらし

日常生活にさらなる彩りを テアトルフォンテ

泉区には客席数332席(現在、感染症拡大防止のため席数を制限しています)を擁するとても素敵な劇場があります。その名も「テアトルフォンテ」。事業担当のスタッフは「横浜市唯一の芝居小屋として造られた地域の文化センターです。公演を提供しその瞬間を楽しんでいただくだけではなく、好奇心をそそり、知識や経験を積むことでより文化芸術に親しみ近づいていただく、そんな土台づくりをする場所です」と言います。今回はテアトルフォンテ自主企画の『コトバ塾』を見学し、講師の女優・二木てるみさんにもお話を伺いました。

 

『コトバ塾』講義風景

 

 

『コトバ塾』へ潜入

 

2021年9月2日、私は憧れの『コトバ塾』を見学しました。『コトバ塾』は一昨年に行った前回が好評だった第2弾企画です。今回も募集期間初日で定員に達するほどの人気でした。私も受講を考えているうちに締め切られていたこともあり、ワクワクを抱えながら教室に入りました。受講生は10名。コロナ禍のため少人数、受講生一人ひとりの机にアクリル板が設置してあります。

 

この日は、全7回のうちの5回目。最終回はテアトルフォンテホールでの発表のため、講座自体はあと2回という、発表に向けての細やかな確認がメインの回でした。

 

「言葉」の「塾」。私は、言葉を発声するにあたってどのようなテクニックを使ったら上手に聞こえるのか?うまく伝わるのか?を学ぶ場だと思っていたのですが、それは違うということをすぐに感じました。

 

二木先生は現代の社会問題について話し出しました。この日は緊急事態宣言発令中でした。なかなか収束の兆しを見せないコロナ禍で「“自分さえよければ”と心を荒(すさ)ませる人々が増えている。もっと「何故?」と疑問を抱かなければいけない」と、ある記事を紹介しながらお話をされました。後に徐々に、なぜこの話をしたのかが、私は分かるようになります。

 

さて、まずは五十音の発声です。冒頭のお話から二木先生の話し方はとても歯切れがよく、聞き取りやすく伸びやかで、私には心地よく感じられていたのですが、五十音という意味をなさない単体の音の発声時もその心地よさは変わらず、度肝を抜かれました。

 

受講生の皆さんも生き生きとした声を出します。一度良い声を出せると「自分は良い声が出せる」と記憶が残り、上手に読める催眠を自分にかけることができる、と二木先生は言います。

 

講師は女優の二木てるみさん

 

 

「詩をよむ」ということ

 

発表会では、吉野弘さんの詩を朗読します。なぜ詩なのか?なぜ吉野弘さんなのか?「詩は小説などと違って言葉が少なく、余計なことが書かれていない分、エッセンスが凝縮されています。俯瞰した位置から眺める客観性がなければ共感できない一方で、のめり込むように気持ちが吸い寄せられる部分もないと成立しません。私は、そのメリハリに心が揺さぶられます。中でも、吉野弘さんの詩は優しさと気遣いに溢れています」と二木先生は言います。

 

『吉野弘詩集』より「祝婚歌」を全員で朗読しました。一人ひとりのパートに二木先生は細やかなアドバイスをしていました。間の取り方・テンポ・音の高さ、物質的に本のページには記されていない空白を読み取り「言葉プラスα」として表現することで、印刷された文字たちが生命を与えられたように動き出し、詩の世界観を表現しているように見えました。

 

例えば、「飛ぶ」という動詞が品詞・動詞としてとどまっているだけではいけない、羽をつけて「飛ぶ」を飛ばさないといけない、と二木先生。受講生にとっては、理解はしても表現するのは難しい箇所もあるようでしたが、何回かの練習後の大成功には「グーです!」「YES!YES!そこ覚えておいて!」と先生の溌剌とした声が教室に響きわたりました。とても濃厚な充実した1時間半があっという間に過ぎていきました。

 

発表会では全員での朗読のほかに、ソロやペアでの朗読もあるのですが、一般公開はされずなんとももったいない限りです。ただ、受講生の皆さんにとってはテアトルフォンテホールでの発表という貴重な体験。学生の頃と違い大人になってからの非日常な体験は、人生の大切な1コマとなるでしょう。

 

テキストとしての詩集『吉野弘詩集』

 

 

区外にも広がる「キモチ塾」

 

受講生の中には泉区外から足を運ぶ人も少なくありません。また、第1弾も受講してとても良かったからと今回も受講をした人もいます。きっかけは様々です。「安い・近い・短い」という物理的な動機のほか、本が好きで友達に誘われたからという人もいれば、紙芝居のボランティアをしている人、認知症サポーターとして活動するにあたり円滑にコミュニケーションをとれるようになりたいという人。受講生に共通して感じ取れる背景には、「言葉」を単なる伝達手段だけでなく「気持ちを乗せたプレゼント」にして扱おうという気持ちがありました。

 

二木先生が言っていた「ありがとう」の語源の話。軽い気持ちのサンキューではなく、生きていくことが困難な時代の中で「(施しなどが)有ること(在ること)が難しい(貴重)」ことへの感謝。それが「有り難う」なのだと言います。

 

本来の言葉の意味を知ることで、言葉の豊かさや表現の幅が広がっていきます。しかも、日本語はとても風情のある言葉が多いのも特徴です。さらに「演者だからこそ、どう伝えるのか?」を色々と考える、という「コトバ塾」での体験を経た受講生たちと話をして、私は二木先生の言葉が彼らに「伝わっている」と思いました。

 

左から受講生の島崎さん・小河さん・田渕さん

 

 

特別だけど特別ではない場所

 

私たちは基本的に毎日言葉を使っています。コロナ禍で暗いニュースが続く毎日ですが、『コトバ塾』の受講を経て、その毎日の生活が少しでも色あざやかに送られるのであれば、二木先生にとってもテアトルフォンテスタッフにとっても嬉しいことだと思います。

 

そして、これは言葉に限ったことではありません。私たちは生活をする上で、音楽を聴いたり演奏したり、お芝居や映画を観たり、それぞれに様々な趣味があります。趣味をもう一歩深めることで、日常生活が楽しく進化するかもしれません。

 

コロナ禍で遠出を控えることが求められている今だからこそ、近場のテアトルフォンテを覗いてみませんか?思いもよらないワクワクと出逢えるかもしれません。事業担当のスタッフは言います。「特別な場所だが特別ではない場所。それが、泉区民文化センター テアトルフォンテ」

 

 

##ライタークレジット
写真・文=佐々木加代子(泉区ローカルライター)

 

##Information
泉区民文化センターテアトルフォンテ
http://www.theatre-fonte.com/

 

二木てるみ
三歳で映画界入り。1965年第16回ブルーリボン賞助演女優賞を史上最年少で受賞。1987年ギャラクシー賞個人賞を受賞。2002年より立教女学院短期大学の客員教授として幼児教育科の学生を対象にした「自己表現」についての講義を受け持つなどその活動の場を広げ、役者としての原点でもある「語り」をライフワークとして大・小のステージで分野の違う人々ともジョイントを続けている。

 

※このコーナーの記事は、泉区が大好きな「泉区ローカルライター」が、区民の目線で取材し、執筆しています。

 

 

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