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「るあな」の干し野菜はどうやって作られるのか?

干し野菜とパスタがセットされた商品をご存じですか? フライパンにお水と調味料とこのパスタセットを入れて火にかけ、待つこと約10分、干した野菜からうまみが出てとても立派なパスタが出来上がるのです。製造元を調べると近所の福祉事業所「るあな」で作られているとのこと。「るあな」を取材し、干し野菜ができるまでの秘密を探ることにしました。

 

パスタと干し野菜がセットになった「るあなナポリタン」。フライパン一つで調理ができ、味は本格派

 

 

八角形のとんがり屋根がシンボルの生活介護事業所 「るあな」

 

八角形のとんがり屋根がシンボルです。市営地下鉄が広い空の中を走っていきます

 

扉を開けると棚には干し野菜の商品が並べられています。賞味期限は10カ月と比較的長期のため、保存食にも最適です。が、おいしいので、我が家ではすぐに食べちゃいます

 

横浜市営地下鉄ブルーライン「下飯田」駅を出て、環状四号線を横断し、和泉川に向かって下っていくと、和泉川の橋の先に桃色のとんがり屋根を乗せた八角形の建物が見えてきます。そこが干し野菜パスタセットの製造元である生活介護事業所の「るあな」です。所長の勝野学さんにお話を伺いました。

 

 

自然豊かな環境で事業を開始

 

生活介護事業所「るあな」 勝野学さん

 

2017年8月に「社会福祉法人いずみ苗場の会」の生活介護事業所である「つぼみの家」「第2つぼみの家」に次いで3番目の施設として、障がいのある方が日中作業をする「るあな」が開所しました。「るあな」の由来は、ハワイ語の「陽気な人々や仲間と楽しむ、くつろぐ」で、メンバーさん、職員さんみんながわいわい言いながら楽しむ場所を願ってつけられたそうです。

 

「るあな」は、区内在住の干し野菜研究家・澤井香予(※)さんの協力のもと、干し野菜商品の製造をメインとした事業所としてスタートしました。現在は21人が利用しており、「るあな」では「メンバーさん」と呼んでいます。

 

八角形の建物が販売所スペース、その奥にメンバーさんの作業場所があります。作業場所の奥に小さな畑があり、ニンニクやキャベツ、大根など干し野菜の材料になる野菜を育てています。和泉川沿いにあるので、メンバーさんと作業の合間に散歩に出かけたり、遠くに見える市営地下鉄の電車をみたり、名前の通り「広々した自然豊かな環境に恵まれ最高の環境で過ごせている」と勝野さんはうれしそうに、そして誇らしげにお話してくれました。

 

 

干し野菜研究家の澤井さんとのコラボレーション

 

干し野菜研究家 澤井さんとメンバーさんの作業風景 メンバーさんへ声かけしながら、みんなで作業をしています

 

おいしい干し野菜の商品企画と工程を担当するのは澤井さんです。冬はサツマイモ、ゴボウ、そして白菜、果物のりんごやミカン、春はキャベツなどの葉もの野菜、夏はなすやトマトなど、季節毎に手に入る野菜を使って商品を考えています。野菜も「るあな」で栽培したものや近所の農家さんから購入したもの、澤井さんの声かけで卸売り市場から集まる規格外品のものを扱っています。取材の日も、お味噌汁の具やラーメンの具などの材料になるかぶの葉っぱ、キャベツを扱っていました。

 

工程はシンプルで、野菜や果物をさいの目に切ったり、薄く切ったりしたあと、乾燥工程のため大きなバットに広げ、乾燥機にかけます。野菜は60度、果物は50度で2日間乾燥します。その後、袋詰めにします。ほとんどの工程にメンバーさんがかかわっています。

 

包丁をつかってネギを輪切りにしていました。ネギの香りでいっぱいで「おいしくなあれ」を食べる人へ届けたくなるんですね

 

取材中、さいの目カッターのキッチン道具を使って細かくネギを切っているメンバーさんに「パスタを家で作って食べたらおいしかったよ!」と声をかけたところ、「おいしくなぁれっていうおまじないをいっぱい入れてるからだよ」と満面の笑みで返してくれました。

 

澤井さん曰く、野菜の裁断や乾燥した野菜は、さまざまな形になる上に、もろくなっているものもあるので、梱包を機械化するのが難しく、人の手で詰めるのが適しているということでした。私のお気に入りの「えのきのペンネ」に入っているえのきは、崩れやすいので、人の手によって丁寧に袋詰めされているということが分かって、さらに商品への愛着がわきました。

 

コップを使って壊れやすい干し野菜を丁寧にそして優しく袋詰めにします

 

 

メンバーさんに寄り添った支援を目指す

 

開所当初から干し野菜の作業をしているベテランの小夜井さん(左)と依田さん(右)。自慢の商品を手にして写真に収まってくれました。依田さんが目をつぶっちゃったのが残念

 

再び勝野さんに今後の「るあな」についてお話を伺いました。勝野さんは、福祉関係の大学を卒業後、神奈川県綾瀬市にある福祉事業所で経験を積み、地元の泉区に戻り、「社会福祉法人いずみ苗場の会」に入職し今に至ります。これらの経験を通してメンバーさんの個性を生かしたサポートをしたいと思うようになったそうです。

 

干し野菜の作業は澤井さんに任せることで、勝野さんはじめ職員の方は、メンバーさんごとの特性に合わせたサポートに集中できます。「るあな」も開所から早6年が経過し、通ってくるメンバーさんの中には卒業を考える世代がでてきたそうです。メンバーさんが加齢に伴って作業が難しくなる前の自己肯定感があるうちに、惜しまれつつ、花道を飾る形で事業所からの卒業をご家族の方、メンバーさん本人、そしてメンバーさんの計画相談員と連携して考えているとのことでした。

 

「るあな干し野菜」シリーズは、口コミやSNSの影響もあり品薄になることも多々あるそうですが、「商品の製造はあくまでメンバーさんの手によって作られるもので、メンバーさんが前向きに活動できる範囲を尊重しながら、『メンバーさんファースト』で事業を進めていく」と勝野さんは信念をもっておっしゃっていました。

 

「るあな」所長の勝野さん(左)と一人暮らしを実現した妙林さん(右)。作業が終わってこれからメンバーさんがおうちに帰る時間です。お疲れ様でした

 

「るあな」の干し野菜は、干し野菜のプロ・澤井さんとのコラボレーションと、泉区ならではの野菜と自然豊富な中でゆったりと作業をするメンバーさんから注がれる「おいしくなぁれ」のおまじない、そして彼らを温かく見守る職員さんのまなざしから生まれた愛情の賜物。だから魅力があり、おいしいんだ、と私は納得しました。この取材で、勝野さんたちの想いやメンバーさんの笑顔に触れ、とても温かい気持ちになりました。新作商品も出るようですので、メンバーさんの様子を伺いがてら「るあな」を定期的に訪れようと思いました。みなさんも立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

 

 

##ライタークレジット:

写真・文=小松文美(泉区ローカルライター)

 

 

##Information

社会福祉法人 いずみ苗場の会 生活介護事業所 「るあな」

〒245-0016

横浜市泉区和泉町2338-2

TEL:045-800-3362

FAX:045-800-3363

ホームページ:https://izumi-naeba.net

営業時間:10:00-15:00(メンバーさんの送迎や行事、支援体制による変更あり)

月曜日から金曜日

 

 

※干し野菜研究家 澤井香予 オフィシャルブログ

https://shokuzenlab.com/author/yokohama-dry-vegetable/

 

 

※このコーナーの記事は、泉区が大好きな「泉区ローカルライター」が、区民の目線で取材し、執筆しています。

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